カルシウムイオノフォア

カルシウムイオノフォアとは顕微授精後に特殊な培養液に卵子をつけることで卵子の活性化を行います。

通常の顕微受精

通常の顕微受精

カルシウムイオノフォア受精

カルシウムイオノフォア受精

カルシウムイオノフォア(Ca2+ ionophore)とは、細胞膜のカルシウムイオンの透過性を亢進する物質の総称です。
ARTでは、卵子の活性化を起こすために用います。受精障害や重度の男性不妊の症例に適応となります。

受精とは、精子が卵子の中に入ってそれぞれの核が融合することです。

もう少し詳しく言うと、まず、精子が卵子の表面を覆っている「殻」の部分(透明帯)を通過して卵子の中に入り、卵子の細胞膜に精子がくっつきます。
すると、精子が持っているPLCζという物質が卵子内のカルシウムを上昇させます。
カルシウムは卵子内を波状に伝播していき、卵子は活性化します。
このカルシウムの波は繰り返し、一定時間続きます(カルシウムオシレーション)。
その間に卵子内で様々な変化が起こり、2個の前核(卵子由来、精子由来の遺伝子が入っている)が形成され、最終的に2個の前核が融合して受精が完了します。

1) 透明帯貫通

精子頭部から酵素(ヒアルロニダーゼ)が出て透明帯を溶かし、透明帯内(囲卵腔)に入っていく。

透明帯貫通

2) 膜融合

精子が卵子の細胞膜に接着する。この時点で、他の精子の侵入はブロックされる。
精子から卵活性化物質(PLCζ)が放出される。

膜融合

3) 卵子活性化

PLCζが卵細胞質内の小胞体からカルシウムを放出させる。
カルシウムは卵細胞質内を波状に伝播していく。
この現象(カルシウムオシレーション)の間は卵子が活性化している状態で、前核期まで続く。
この間に卵子の減数分裂再開、第2極体放出、精子核膜の崩壊~再凝集が起こる。

卵子活性化

4) 2前核形成~前核融合

卵子由来の遺伝子が入っている雌性前核と、精子由来の遺伝子が入っている雄性前核が形成される。
最終的にこの2個の前核が融合し、受精が完了する。

2前核形成~前核融合

顕微授精の場合は、卵子に針を刺して精子を注入した時点で卵子が活性化しますが、膜融合からPLCζ放出がバイパスされるため、卵子の活性化に必要なカルシウムの上昇が不十分なことがあります。

そんな時に有効なのがカルシウムイオノフォアです。
カルシウムイオノフォアは卵細胞質内のカルシウム濃度の上昇を促す薬剤で、その作用により顕微授精後の卵子活性化を誘導します。