排卵誘発に対する当院の考え方

当院では、「体に優しい体外受精」と「積極的な体外受精」の2つのコースをご用意しています。
わたしたちは長年の経験から、排卵誘発の基本はテーラーメイド、つまり、患者様ごとの症例に合わせて検討すべきものと考えています。
そのため、採卵周期の前には、2つのコースを基本にしながら、患者様それぞれに合ったプランを組み立てます。
そしてどちらのコースも「痛みのない体外受精」を受けて頂けます。

排卵誘発の方法丸ボタン

患者様ごとのテーラーメイドの排卵法
テーラーメイドイメージ

体に優しい体外受精

複数個の卵子が育っても、未熟卵子が多かったりすると、すべての卵子を受精させることができるわけではありません。
また、連日注射を打っても、あまり多くの卵胞が発育しないのであれば、低刺激や完全自然周期で採卵したほうが、体への負担が少ないです。

自然周期での採卵を目指す場合、迅速にホルモン検査ができる設備と、医師の経験が必要になります。
たった1個発育してきた卵子を回収できなければ、また1ヶ月後まで待たなければいけないからです。

積極的な体外受精

「積極的な体外受精」では、できるだけ多くの卵ができるように、注射で卵巣を積極的に刺激します(刺激法)。
一度の採卵でたくさんの卵をとることができるので、効率の良い治療ができます。
年齢の高い方、卵巣予備機能および良好卵子の割合がやや低下している方、仕事などの都合で1、2日の採卵日調整ができた方がいい方は、こちらが適用となります。

理由は、下記の通りです。

  1. 低刺激法や自然法採卵の場合は、排卵による採卵キャンセルや空胞の可能性、受精や分割をしなかったりして胚移植ができない場合が、刺激法に比べて多い。
  2. 低刺激法や自然法の場合、採卵個数が少ないので余剰卵凍結がなく、連続周期採卵が必要である。体への負担と、結果的に金銭的負担が増えることが多い。
  3. 第2子の可能性を考えた場合、30代後半では、余剰胚が凍結できたほうが有利である。

最近では、ショート法とともに排卵抑制法にMPA(内服薬)を用いたHMG-MPA法を第一選択によく使っています。
この方法の利点は、月経周期のどの時点からでも開始できる(ランダムスタート法)という点です。
このため、はじめは乳癌治療前など、排卵までの時間がとれない方の卵子凍結を中心によく使用されていました。
ショート法よりもOHSSのリスク回避が容易という利点もあります。

排卵誘発のまとめ

方法 発育 コントロール 排卵リスク
良好が◎ 良好が◎ 無しが◎
体に優しい体外受精 クロミフェン®法
レトロゾール法
(乳がん例に◯)
完全自然法
積極的な体外受精 HMG-MPA法
ショート法
ロング法
HMGセトロ法
方法 移植キャンセル OHSS 予備機能低下例
無しが◎ 無しが◎ 効果有りが◎
体に優しい体外受精 クロミフェン®法
レトロゾール法
(乳がん例に○)
完全自然法
積極的な体外受精 HMG-MPA法 ×(全凍結のみ)
ショート法
ロング法
HMGセトロ法

体外受精の概要については、こちらに記載しています。

痛みのない体外受精

採卵時の痛みをできるだけ和らげるためのご用意があります。

① 採卵針

採卵針イメージ

当院では、卵胞数に応じて採卵針の太さを調整しています。
細ければ細いほど痛みが少ないと思われるかもしれませんが、針を刺すときの痛みは一瞬のことです。
その一方で、採卵に要する時間は、針が細ければ細いほど長くなります。
ですので、そのバランスが必要です。
基本的には採卵に用いられる針の中で最も細い21G(ゲージ)もしくはその次に細い19Gの採卵針を用いることが多いです。

② 麻酔

自然周期や低刺激の場合、発育卵胞数が少ないために、無麻酔での採卵をされている施設もあります。
しかし、無麻酔での採卵が、痛いのは間違いありません。
卵巣は腹腔内に位置しています。
そのため、腟の壁を通過して卵巣に針を刺すことになります。
腟壁はかなり痛みに敏感ですので、腟壁に局所麻酔をすることによって針を刺入するときの痛みはなくなります(歯医者さんの麻酔と同じです)。
卵巣そのものは臓器なので、事前に痛み止めの座薬を挿入することで、非常に軽減されます。
もちろん、採卵後に痛みがあるときも、よく効きます。
さらに、採卵時に痛みに対する緊張で余計に痛みを強く感じたり、怖くて体が動いたりして採卵がうまくできないということがないように、短時間作用の静脈麻酔を使用することが多いです。

採卵に要する時間は、自然周期や低刺激だとせいぜい5分程度ですが、静脈麻酔を使用すると、少量の使用で、寝ている間に終わります。

③ 安心できる環境

実は痛みの感じ方には個人差もありますが、安心して治療に臨んでいるかどうかが大きく影響します。
できる限り、患者様の不安を軽減するための努力をしています。
疑問点があればいつでも電話で確認していただけます。
また当日は、看護師、医師、胚培養士、それぞれが当日ご本人確認をして、採卵に臨みます。

医師の経験に関して

  • 田口早桐医師写真
  • 船曳美也子医師写真
  • 林輝美ドクター写真
  • 多田佳宏医師写真
  • 松原高史医師写真
  • 渡邊倫子医師写真
  • 伊元さやか医師写真
  • カロンゴスジャンニーナ医師写真

当院は生殖医療専門医研修指定施設となっており、数多くの生殖医療専門医およびその研修中の医師のみが勤務しています。
前提として、どの医師も、産婦人科医として充分な研鑚を積んでいます。
さらに、東京1院、大阪2院にいる医師同士、互いに連絡連携をとれる体制となっておりますので、判断に迷う場合は複数で相談しながら診療を行います。

カルテ情報は完全に共有されているのと、超音波検査の動画データも、その場で共有しつつ意見を交換することが可能になっています。
臨床の現場で、判断に迷う場面というのは常に経験します。
その際、当院では一人の医師が判断するのではなく、複数医師によっての判断が行われます。

ホルモン測定設備に関して

ホルモン測定器イメージ

採血して15分後には下記のホルモンの結果が得られますのですぐに診療の指標にすることができます。
TOSOH社のAIA-360を使用しています。

  1. エストロゲン値:卵胞から分泌されて卵胞発育の指標となる
  2. LH:排卵前の卵胞成熟反応が始まっているかどうかを確認する
  3. FSH:その周期の卵巣の反応を予測するための指標

排卵誘発法の議論

ショート法かロング法か
~ロング法は本当に他の方法(ショート法など)に比べて良いのか~

ロング・ショート法

実は、世界のスタンダードとなっているのは、アゴニスト法のロング法です。
ロング法がよいか、ショート法が良いか、という議論は大昔からされていますが、成功率としては、RCT(random controlled study)により、ロング法のほうが少しよい、という結果になっているものが多いです(ただし生児出生率に関していうと、あまり変わらない、という報告もよくあります)。
しかし、私たちはあえて第一選択をロング法にしていません。

理由として、

  1. ロング法は、前周期の避妊が必要。
    前周期の高温期に中期からアゴニストを使用するということは、前周期に避妊が必要ということになる。
    不妊で受診している方がわざわざ避妊を行うことが不自然であるし、妊娠の機会を一回奪うことになる。
    また、高温期を確認するため、詳細に基礎体温を測定する必要がある。
    さらに、避妊がうまくいかず妊娠が成立していた場合は、妊娠初期に不要な薬を使うことになる。
  2. ロング法はショート法と比べ、フレアアップ効果がなくまた下垂体抑制が強く、大量のHMG注射を必要とする。
  3. ロング法の方がフレアアップがなく下垂体抑制が強いため、採卵日の調節が容易、または注射量を調整することでOHSSの回避(とくにPCO)が容易、といわれているが、ショート法でも、初回採卵の場合は月経周期6日目という早期に卵胞数とサイズを確認することにより充分コントロールが行える。
  4. ただし、これは「絶対にショート法の方がよい。」もしくは「ロング法は良くない」という意味ではなく、それぞれの患者様に合った方法を考えた結果、結果としてショート法が多くなっている、という現実からきています。
    現実として、体外受精を受ける方は30代後半から40歳前後の方が多く、卵巣予備能及び良好卵子の割合がやや低下した状態でのスタートになること、ご夫婦の仕事等の都合で1、2日の採卵日調整ができたほうがいいこと、できれば凍結卵を確保したいという希望が多いこと。

などがあります。

アゴニストかアンタゴニスト(セトロタイド®)かMPAか

アゴニスト(主に点鼻薬。主にショート法とロング法)で排卵抑制をして採卵する、というのが従来の方法でしたが、一時的に排卵を抑制することのできるアンタゴニストが使われだしたのは10年ほど前の話です。
現在の製剤が開発されるまでは、副作用が強くてほとんど使われませんでした。

刺激周期では、月経周期6日目から使用を開始します。
製剤が出始めの頃は、アゴニストよりアンタゴニストの方が採卵した卵子の質がよい、などの報告も出ましたが、現在では、とくに卵子の質に関しては変わりないといわれています。
当院でもそのように実感しています。

アンタゴニストの良い点は、下垂体抑制が弱い、一時的で長引かない、という点です。
反面、その分、排卵のリスクがあるため、例えば、卵胞のサイズがばらばらで発育の遅い卵胞が数個あるときなど、アゴニスト法だとしっかり排卵抑制が掛かっているため、充分な大きさの卵胞があっても、小さな卵胞の発育を待つことができます。

しかし、アンタゴニスト法だと、大きな卵胞が排卵しては困るので、あまり待つことができません。
結果的に抑制は強いものの、アゴニスト法の方が多くの卵子が回収できることもあります。