Oak Journal Review: PGT-Aでモザイクと判定された胚の移植

Oak Journal Review: PGT-Aでモザイクと判定された胚の移植

こんにちは。検査部の鈴木です。

今回の動画では、5月17日に開催いたしましたOak Journal and Case Reviewより、私が紹介したOak Journal Reviewの内容をお届けします。

紹介した論文は、
Using outcome data from one thousand mosaic embryo transfers to formulate an embryo ranking system for clinical use.
Viotti M, Victor AR, Barnes FL, Zouves CG, Besser AG, Grifo JA, et al. Fertil Steril 2021;115(5):1212–24.
です。

PGT-Aは、Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidyの略で、体外受精により作成した胚を移植前に1番染色体から22番染色体、さらに性染色体の全ての染色体の数的異常を調べる検査です。以前は、PGS (Preimplantation Genetic Screening)と呼ばれていましたが、呼び方が変わりました。


少し前の論文紹介動画(1)で話しましたように、せっかく妊娠をしても約15%が流産となり、そのうちの約半数には染色体の数的な異常が見られます。また、そもそも受精卵に染色体の異常があると、妊娠に至らない事がほとんどです。
日本産科婦人科学会が集計しているこの年齢と妊娠率の図(2)を見た方も多いかと思います。この図では、年齢とともに移植あたりの妊娠率が低下しています。一方、これまでの研究で受精卵の染色体異常の割合は、下の図のように年齢とともに上昇していました(3)。そのため年齢とともに妊娠率が低下するのは、染色体異常の割合が高くなるからだと考えられています。

そこで現在日本産科婦人科学会では、PGT-Aにより
・妊娠初期の流産を少なくなるか
・妊娠率が上昇するか
を調べる共同研究を行っています。

PGT-Aでは、受精卵から将来胎盤になる部分の細胞をほんの5から10個ほど切り取り、PCRによりDNAを増幅した後次世代シーケンサーNGS(当院の場合)にて染色体の数的異常の有無を調べます。
検査結果が、単純に異常の有りと無しならば結果の解釈は難しくありません。しかし現実には、この5から10個の細胞に染色体異常のある細胞とない細胞が混じっていることがあります。そのような正常と異常な細胞が混じった状態をモザイクと呼びます。
これまでに海外でモザイクの胚を移植して妊娠から出産に至った例が報告されていましたが、症例数が多くないため定量的な解析ができませんでした。

今回紹介した論文では、モザイク胚を子宮に移植した1,000例の結果を元に、染色体数に異常の見つからなかった正常胚と比べて妊娠率やその後の結果に差はあるのか検討しています。また、同じモザイク胚の中でもモザイクの割合や異常の大きさでの差も比較して、良い結果につながる優先順位を提案しています。
また、これまで移植する胚を決める参考にしていた胚のグレードとの組み合わせも、もしモザイク胚を移植するとしたときには難しい判断になるかと思います。例えばモザイク内での予想される結果は良くないが胚のグレードが良い胚と、胚のグレードはあまり良くないがモザイク内での予想される結果は比較的良い胚があったときにどちらを移植するか?です。
この論文では、胚のグレードも加味したスコアシステムも提案しています。

ただ、モザイク胚を移植して生まれたお子さんの長期的な影響はまだわかっていません。この論文でも、どこまで詳細に生まれてきた子どもに異常があるか調べているか不明な部分があり、更なる研究の積み重ねが必要だと感じました。
前置きが長くなりましたが、この研究の詳細は、こちらの動画でご確認ください。

参照
1. Oak Journal Review:凍結融解胚移植では、染色体異常の割合が流産検体で低下する

2. ARTデータブック 2018年 PDF版
https://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/2018data_20201001.pdf

3. Franasiak JM, Forman EJ, Hong KH, Werner MD, Upham KM, Treff NR, et al. The nature of aneuploidy with increasing age of the female partner: A review of 15,169 consecutive trophectoderm biopsies evaluated with comprehensive chromosomal screening. Fertil Steril 2014;101(3):656–63.e1.