中森 萌 培養士

中森 萌 培養士 インタビュー

Q&A

好きな食べ物
キャロットケーキ、パン
嫌いな食べ物
パクチー
犬派、猫派?
猫派

インタビュー

体外受精は、赤ちゃんを授かりたいと願うカップルにとって重要な治療法の一つです。
その治療を支えるのが『胚培養士』です。胚培養士は、卵子や精子、胚(受精卵)を扱い、生命の誕生をお手伝いする特別な仕事です。今回は、10年以上の経験を持つ胚培養士・中森萌さんにお話を伺いました。

キャリアの始まりは昆虫研究から。そして、胚培養士へ
中森さんは、胚培養士になられてどのくらい経ちますか?
かれこれ、10年以上になります。
もともと大学時代から細胞研究をされていたとお聞きしましたが、どのような研究を?
殺虫剤の研究をしていました。昆虫の卵巣から採取した細胞を使って、殺虫剤の効果や抵抗性について研究していました。
昆虫細胞の研究から胚培養士ですか。同級生や先輩にも胚培養士になった方がいらっしゃったんですか?
そうですね。昆虫から胚培養士へというと「え?」と思う方もいらっしゃいますが、細胞を育てる技術に魅了されていました。胚培養士を目指すきっかけは、当時の研究が基礎となっていますが、これを人の命に関わる分野で活かしたい、命の誕生に関わりたいと思いました。大学時代の友人や先輩にも胚培養士になった方はいましたので、仕事としては身近でもありました。
初めて人の卵子や胚の美しさに感動した瞬間
人の卵子や胚を初めて見たのはいつですか?
オーク会で働き始めてからですね。胚培養士になりたての頃は、細胞の取り扱いに緊張しましたが、初めて人の卵子を見たときは「意外と大きいな」と思いました。 また、透明感があって、とても美しいと感じたことを今でも覚えています。
胚培養士として成長するまで
胚培養士として、ひと通りのことができるようになるまでどれくらいかかりましたか?
私は、約2年半から3年くらいですね。先輩に指導してもらいながら、スキルを身につけていきました。胚培養とひと言でいっても、いろいろな仕事があります。 大きくは、精子の洗浄濃縮や選別、受精、胚の培養、胚の凍結や融解、胚移植とありますが、受精1つをとっても精子を卵子に振りかける方法と1個の精子を卵子に入れる顕微授精では、できるようになるまでのステップに違いがあります。コツコツとやることが好きなので、私は胚培養士という仕事が向いていたのかなと思います。一つひとつのステップやスキルの習得に達成感を持てたことなども良かったと思います。
初めての顕微授精のときは緊張しましたか?
ものすごく緊張しました。 顕微授精をするまでに多くのトレーニングを重ねるので手が震えることはないのですが、たぶん、息をしてなかったと思います。それくらい集中していました。 今は、そこまでの緊張はありませんが、やっぱり緊張はします。1日に行う顕微授精は、卵子1個だけではありません。時には何十個としなければなりませんから、その間はずっと集中しています。 胚培養士の仕事は、受精に関わることだけではなく、多くのことをこなさなくてはいけないので、一つひとつの業務にミスがないように気を配っています。
たとえば、どのようなことに気配りが必要ですか?
そうですね。たとえば、卵子や胚をインキュベーター(胚を一定の温度や湿度で育てるための機器)から出す時などです。インキュベーターから出して顕微鏡のあるクリーンベンチ(無菌環境を保ちながら作業を行うための機器)へ運ばなければならない、またクリーンベンチからインキュベーターへ運ばなければならない時などは、ディッシュを傾けてこぼさないように慎重に運びます。 また、受精や凍結をするためにインキュベーターから卵子や胚を出しますので、短時間でミスなく完了し胚にストレスを与えないように気を配ることも大切です。 1つのことを完了するまでに、気を配らなければならないことはたくさんあります。将来、赤ちゃんになる可能性のある胚を扱う培養の仕事は、緊張の連続ですね。 また、マニュアルを守ることも、とても大切です。
患者さんへの説明への気配りはいかがでしょうか。
説明している時の患者さまの反応を見ながら、わかりやすく、丁寧にお伝えすること、またカルテなどを確認して間違いがないようにすることを大事にしています。特に初めての方には、安心してもらえるよう心掛けています。 受精の確認や胚発育、胚の評価についてはお電話やヘルプセンターでお話を伺っています。詳しいことやご質問についても、その時に時間をかけてご説明しています。 患者さまは、胚移植の際にはおおむねそうした内容の不安や疑問がない状態ですので、移植前には緊張を和らげ、リラックスできるようにお話しています。ある患者さんは最初、とても緊張されていましたが、「今日移植する胚はとてもきれいですよ」とお伝えした際、笑顔を見せてくださいました。
マニュアルに沿った業務とチームワークの重要性
一つひとつの業務や方法にマニュアルがあるのですか?
はい、培養に関する業務を細かく記載したマニュアルがあります。新しい機器や新しい技術が導入された場合などは、更新しながら胚培養士全員で共有しています。 マニュアルには、業務に関する内容だけでなく、胚培養士の教育やトレーニング法などについてもあり、1つの業務についてもステップがあり、スキルを身につけて合格をしなければ、患者さまの卵子や精子、胚を扱う業務はできません。合格したら、合格した業務については実際に行うことができ、次、またその次と、スキルアップして、2年から3年ほどをかけて全ての業務ができる胚培養士へと育成します。 マニュアルに沿ってトレーニングを行うことで、胚培養士間のスキルの差がなくなります。また、実際の業務に関しても問題なく業務が進められるようにマニュアル化しています
マニュアルはチームで仕事を進める上でも大切なんですね。
そうです。たとえば、業務の途中で具合が悪くなったら、交代した胚培養士がすぐにどこから始めればいいのかもわかります。私たち胚培養士が扱っているのは、患者さまからお預かりしている卵子や精子、胚という大切な命のもとなので、どんな状況になっても培養業務が滞ることがないように向き合っています。 また、新しい方法が導入される際には柔軟に対応すること、そして練習を怠らないことも大切にしています。
胚培養士の緊張感とリラックス法
緊張の連続なんですね。1日中気が抜けないと思いますが、どのようにリラックスされていますか?
休日は、あまり仕事のことを考えないようにしています。家族と過ごしたり、趣味を楽しんだりしてリフレッシュします。いろいろと調べるのも好きなので、「最近、肌の調子が良くないから・・・」と化粧品を探したり、どんな成分がいいのかと調べたりするのも好きです。
家庭との両立も大変ですね。
そうですね。仕事はきちんと勤務時間内で終わらせるよう心掛けています。それが家庭と仕事を両立させるポイントだと思います。家庭も仕事も大事ですから。
胚培養士を目指す人へのメッセージ
これから胚培養士を目指す人に伝えたいことはありますか?
胚培養士は、体外受精において胚を育て、受精や移植を行う重要な役割を担う職業です。緊張感のある仕事ですが、それだけやりがいも大きい仕事です。 私が10年以上、続けてこられたのは日々の小さな達成感の積み重ねです。それが赤ちゃん誕生という大きな成果につながると思うと、続ける力になります。 興味のある方には、ぜひ挑戦してほしいですね。細かい作業をコツコツと続けられる集中力や、患者さまに寄り添う思いやりも重要だと思います。
胚培養士として、一番やりがいを感じる瞬間は?
患者さんから「妊娠しました」「ありがとうございました」と言われた瞬間は、今でも胸がいっぱいになります。その方の治療の経過を思い出し、「赤ちゃんを授かるお手伝いができたんだ」と嬉しく思うと同時に、胚培養士という仕事の重さを改めて実感します。治療が長期間になり、患者さまの気持ちに寄り添うのが技術的にも精神的にも苦しくなることもありますが、患者さまからの妊娠報告は、これまでの努力が報われたような気持ちになります。
患者さまへのメッセージをお願いします。
治療の終わりが見えず不安になることも多いかと思いますが、可能な限りサポートします。 納得できるまで一緒に考えるので悔いなく治療を進めてほしいです。 ひとつずつ、一歩ずつ進んでいきましょう。