ミトコンドリアDNAと親子鑑定

ミトコンドリアDNAと親子鑑定

医師の田口です。

2019年に山梨県のキャンプ場で女児が行方不明となった事件がありました。
今回近くの枯れ沢で人骨が見つかりましたが、DNA鑑定が難しく、ミトコンドリアDNA型を用いた鑑定がなされ、行方不明女児の母親との間の親子関係が認められたという報道がありました。

細胞にはいわゆる、DNAの集まりである遺伝子が、核の中に存在しています。その人個人の遺伝情報は、そこに存在しており、通常のDNA鑑定はこの「核DNA」で行います。
細胞内の核以外の場所は細胞質といいますが、そのなかにさまざまな細胞内小器官といわれるものがあります。その中の一つがミトコンドリアです。1つの細胞内に100〜2000個あり、主な役割は、エネルギー産生です。ミトコンドリアは、それぞれ短い固有の「ミトコンドリアDNA」を持っています。

核DNAは、基本的に両親由来の2コピーのみですが、ミトコンドリアDNAは100〜2000コピー存在するので、核DNAが採取できなくても、ミトコンドリアDNAなら取れることがあります。

また、ミトコンドリアDNAは、卵子→受精卵→次の世代に伝わります。精子は細胞質がほとんどないので、父親から受け継ぐことはなく、子供にはすべて母親から受け継がれます。なので母方の家系かどうかの鑑定には使えますが、父子鑑定には使えないのです。

鑑定の話とは異なりますが、ミトコンドリア病という、ミトコンドリア遺伝子の変異によって、ミトコンドリアに異常が生じてエネルギー産生ができない病気があります。この病気の遺伝を防ぐために、体外受精で作った受精卵の核を、第3者の受精卵(核を除いた)または卵子に移植して、細胞質の異常なミトコンドリアが伝わらないようにする治療法があります。


イギリスなどではすでに実施されていますが、日本では核移植の技術がクローン作製につながるとして、禁止されてきましたが、昨年、政府の生命倫理専門調査会が、文部科学省の新たな指針案を了承し、基礎研究に限って容認されるようになりました。

もちろん、鑑定技術にせよ、病気の治療にせよ、その必要を感じるようなことが起こらないに越したことはないのですが、技術が進むことで、より迅速に結果が得られ、事実の解明や病気の治療につながることを期待します。

後日、DNA鑑定で個人が特定できたとの報道がありました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。