個人の特定 DNAサンプル

個人の特定 DNAサンプル

医師の田口です。

生殖医療に対する保険診療が導入されてから、新たに体外受精を希望される方も多くなっていますが、コロナも未だに注意が必要なこともあって、オンラインでご夫婦に説明する機会が増えています。ただし、オンライン診療の際には、厚生労働省の指導通り、保険証や運転免許証でご本人確認をしています。

本人確認とは少し違いますが、遺伝子型による個人の特定について書こうと思います。前回、行方不明になった方のDNAサンプルの話を書きました。核DNAのサンプル採取が不充分だったので、ミトコンドリアDNAで母系鑑定をしたという内容でしたが、後日、核DNAでの個人特定が出来たとのことです(改めてご冥福をお祈りいたします)。

核DNAを用いた個人特定は、犯罪捜査にも用いられている方法で、日々技術が進歩しています。

ヒトの細胞の核の中には、23対(父親由来と母親由来が対になっている)46個の染色体があります。染色体は1〜22番と性染色体(性別を決める)からなります。1本の染色体は4つの塩基が連なった分子で、1番大きい1番染色体は約2億8000万個、全体では30億個の塩基があります。この4塩基の並び方が、我々の遺伝情報を決めており、その中には、血液型や遺伝病の情報もあります。ただ、全ての塩基対の内、タンパク質を作る情報に使われるのはたった2〜3%で、それ以外の部分は、一部は生命メカニズムに関与、その他の部分は働きがよく分かっていません。

DNA配列には、マイクロサテライトという、塩基の繰り返し配列が多くあります。そのうち、主に4塩基の繰り返し部分を用います。例えば、ATTGATTGATTG・・・(ATTGの繰り返し)のような感じですね。生命メカニズムには関与しない部分にあるマイクロサテライトがヒトのDNA鑑定に用いられています。

マイクロサテライトの繰り返し回数は、10回繰り返し、12回繰り返し、15回繰り返し、など個人ごとに決まっています。父由来と母由来の両方を持っていますので、{12回+10回}とか{10回+15回}とかの組み合わせで持っています。ただし、どちらが父由来なのか母由来なのかは判別がつきません。何タイプの繰り返し型があるかはその遺伝子座によって変わりますが、例えば10タイプあったとしたら、その組み合わせが一致する可能性は最大1/50になります。

このように、13か所のマイクロサテライトについてこのように組み合わせが一致するかどうかを調べていきます。それぞれ1/50の確率であったとしても、13か所全て1/50 の確率で一致するとなると、1/(50の13乗)=1/(5×10の13乗)になります。 遺伝子座によっては繰り返しタイプの種類が少なかったり、発生頻度の偏りにより、最終的にすべて一致する確率は、理論値より少なく、1/(1〜5×10 の12乗)程度と考えられています。それでもこの数字は全世界の人口70億(7×10の9乗)よりもかなり大きいことになります。このことから、これが一致するということは、ほぼ同一人物と考えられるということになります。(注:一卵性双生児の場合は、遺伝子型は、完全に一致します。)

話は変わりますが、今年2月、フランスのマクロン大統領がロシアのプーチン大統領と会談に訪れた際、ロシア側からのコロナウィルスのPCR検査を拒否したという報道がありました。「我々は、マクロン大統領のDNAをロシア側に採取されるのは受け入れられなかった」と、フランスの外交関係者は述べたそうです。が、ロシアの情報機関がどのようにマクロン氏のDNAを悪用できるのかまでは語らなかった、とのことですが、私はとても気になりました。
結果として、報道にあったように、とても長いテーブルの両端に座る会談になりました。

オンライン診療の適切な実施に関する指針:https://www.mhlw.go.jp/content/000889114.pdf
DNA 型検査による個人識別:https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/139/5/139_18-00166-6/_pdf

プーチン大統領とマクロン大統領の会談(2022年2月7日 仏ロ首脳会談)
https://www.bbc.com/japanese/60357981より引用