母体血胎児染色体検査について…その1

母体血胎児染色体検査について…その1

医師の船曳美也子です。

今回は、無侵襲的出生前遺伝学的検査(Non-Invasive Prenatal Genetic Testing : NIPT)についてのお話です。

少し前の話題になりますが、母体血中の胎児染色体を検査することで染色体異常のスクリーニングが可能になるという話がありました。
これについては、まだ臨床研究段階であるにもかかわらず、検査適応は慎重にすべしという学会勧告がわざわざ出されるなど、話題になりました。

アメリカでは2011年10月より開始されているNIPTは、母体血漿中のcell-free DNAを利用して胎児の遺伝学的な検査を行います。母体血液中にある、胎児の染色体中のDNAを解析し遺伝子の異常がないかを見つける、というものです。しかし、具体的に何が分かるのでしょうか。

まず、母体の血液中に胎児の細胞が混ざってるなんて?!と驚きませんか?

これについては、母体血漿中に胎児由来のDNAが循環していることが最初に報告されたのはかなり最近で、1997年です。

胎児と母体を結ぶものは臍帯(さいたい、へそのお)ですが、母体血と胎児血が一番混ざり合うのは胎盤です。胎盤の表面には、絨毛細胞という非常に細かい樹木のような形をした細胞が集まっています。
そして、胎盤は胎児側の細胞から生まれたものです。なので、絨毛細胞はすべて胎児のDNAをもっています。

絨毛細胞は新陳代謝を繰り返し、絨毛の間の血液中に剥脱します。剥脱した絨毛細胞はばらばらになりますが、その細胞のDNAの断片が母体血中に流れ込みます。絨毛細胞は胎児のDNAをもっているので、こうやって母体血液中に胎児のDNAが循環するというわけです。
妊娠10週以降では、なんと母体血漿中のcell free DNAの約15%が胎児由来だそうです。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Gray39.png
*胎盤の構造(上図の一部を拡大したもの)*
上部母体側から酸素、養分に富む動脈血が赤と青の細かい点で描かれた空隙、すなわち絨毛間腔内に放出され、静脈から母体に戻る。
一方、図右下にある臍帯(へその緒)から絨毛間腔側に向かって臍動脈が流れ、図中に樹木のように見える絨毛を経由するうちに、ガス交換、栄養吸収、老廃物の放出が行われ、臍静脈を経由して胎児側に戻る。
図中の用語を左上から、右下に向かって以下に示す。 絨毛 (Villus)、 海綿層 (Stratum spongiosum)、母体血管(Maternal vessels)、胎盤中隔 (Placental septum)、周縁洞 (Marginal sinus)、 絨毛膜 (Chorion)、羊膜 (Amnion)、栄養膜 (Trophoblast)、 2本の臍動脈 (Umbilical arteries)、1本の臍静脈 (Umbilical vein)、 臍帯(Umbilical cord)、いわゆる「へその緒」。
なお、臍動脈と臍静脈の色は実際とは逆に描かれている。