卵胞期後期でのプロゲステロンの上昇が内膜や発育卵胞に及ぼす影響

卵胞期後期でのプロゲステロンの上昇が内膜や発育卵胞に及ぼす影響

医師の田口早桐です。

Late follicular phase progesterone elevation during ovarian stimulation is not associated with decreased implantation of chromosomally screened embryos in thaw cycles
Human Reproduction 8月号から

体外受精で排卵誘発をする際に、誘発して卵胞が発育してくると採卵前からプロゲステロン(以下Pとします)が上昇する例があることが知られています。以前は新鮮胚移植がよくされていたので、Pの上昇が妊娠率を下げることが示唆されていました。
その機序は、上昇したPによって、子宮内膜の受容性が下がるからではないかと言われていました。

現在は、あまり新鮮胚移植をすることはありません。過排卵刺激をして複数の卵胞発育がある場合、卵巣過剰刺激症候群を避ける目的で、新鮮胚移植を避けて全胚凍結することが多いですし、海外ですと特にPGS(preimplantation genetic screening=胚の染色体検査)をしてから移植することが多いので、なおさら全胚凍結が多くなります。

ご紹介する論文は、卵胞期後期でのP上昇は、果たして内膜のみに悪い影響があるのか、発育卵胞に対しての影響はどうなのかを調べた論文です。

結論から言うと、P上昇による胚への影響は認められませんでした。Pが上昇しなかったグループと上昇したグループ(2.0ng/ml以上:全体の4%程度にプロゲステロンの上昇がありました)とで、胚盤胞到達率、染色体正常率を比較し、とくに差を認めなかったのと、それらの胚を移植した際の妊娠率や着床率にも差を認めませんでした。

Pの値をさらに細かく5段階に分けて比較しても、やはり各群間での差はありませんでした。
極端にPが高かったとしても、あまり影響はないようでした。(最初、極端にP値が高い例での着床率低下がありましたが、サンプル数が極端に少ないことと、他の要因を考慮して確認したところ、差がないという結論になっています。)
つまり結論として、排卵誘発中のPの上昇は、胚の質に影響しないということが、明らかになったと言えます。

黄体期からのランダムスタートや、MPAを排卵抑制に用いた排卵誘発などで、Pが高い状態での誘発を最近はよく行います。今回の論文は、それらのプロトコールに安心を添えるものになると思います。