体外受精の刺激法の、受精卵の染色体正常率や生産率への影響

体外受精の刺激法の、受精卵の染色体正常率や生産率への影響

医師の田口早桐です。

No effect of ovarian stimulation and oocyte yield on euploidy and live birth rates: an analysis of 12298 trophectoderm biopsies
Human Reproduction 4月号からです。

高刺激の刺激周期での採卵より、自然周期や低刺激にしたほうが、良い卵が取れる、という根強い意見があります。確かに、排卵誘発剤を打つことによって、なにか卵巣に悪い影響がある気がしてしまいますし、それによって卵子の「質」(非常に曖昧ですが、質の指標として一番に挙がるのが、染色体でしょう)が損なわれる、というのは、感覚的にはあります。

ただ、それが科学的に言えるのかどうか、もし言えるのであればどの程度なのかも重要です。

つまり、もし高刺激の排卵誘発が卵子の質を下げるのだとしたら、低刺激に比較して高刺激によってより多くの卵子数が得られるという「数のメリット」を打ち消してしまうくらいに損なうのかどうか、というところです。

数のメリットが勝つのであれば、わざわざ(空卵胞や排卵済など失敗するリスクがやや高い)低刺激や自然周期を選ぶ必要はないからです。

今回ご紹介する論文は、刺激法は正常染色体の卵子の割合や、生産率に影響しない、ということを、12298個の受精卵の染色体検査から結論したものです。

年齢を35歳未満、35~37歳、38~40歳、41~42、42以上と分けていますが、このあたりの年齢層は1,2年で大きく違ってきますから、このくらい細かく分けているほうが良いと思います。
刺激日数、HMG注射の総量、採卵数、採卵決定時のE2の値、最大卵胞径について(これらが大きいほうが刺激が強いということになる)、染色体正常率や生産率に影響するかどうかを調べています。

結論は先にも述べたように、強い刺激で採卵しても弱い刺激で採卵しても(さすがに自然周期ではないですが)、そこからできる胚の染色体と、正常染色体移植後の妊娠率には、差がありませんでした。
ただし、異なる結果を主張している論文もありますので、さらに検討が必要なのは言うまでもありません。

42歳以上だと、胚の染色体正常率は、この論文で、20%以下。厳しいです。
それに、染色体検査をするためには、胚は拡張胚盤胞まで育つ必要がありますから、採卵受精後にそこまで育たずに発育停止してしまう胚も多いのが現状です。
発育停止した胚の中には、早めに子宮に戻したほうが発育の良かった胚があるかもしれません。
年齢とともに採卵、移植ともに1回1回が貴重です。できる限り可能性の高まる方法を模索していきたいです。