コロナウイルス流行期での妊娠と授乳

コロナウイルス流行期での妊娠と授乳

医師の田口早桐です。

日本での新型コロナウイルスの流行は減少傾向にあるとはいえ、まだまだ予断は許しません。
今回の波が多少落ち着いても、早ければ今年の晩秋から初冬以降、新たな波が襲ってくるだろうと複数の専門家が予測しています。

今後、こういう波が何回か繰り返され、多くの方々が新型コロナウイルスに感染し、集団免疫が獲得されれば普通の風邪なみになるでしょう。

ただ、そういう状況になるまでに、あと少なくとも2年半は、かかるだろうと、つい先日、ハーバード大学の研究者が世界を代表するScience誌掲載の論文で予測しました。

ちなみに、昔、大流行し、多くの死者を出したスペイン風邪は2回流行しました。
また、同じく大流行し、甚大な被害をもたらした香港風邪は、50年以上たった今も存在しています。
でも、香港風邪は、今や普通の風邪になりました。これが集団免疫のなせる技です。

ところで、この新型コロナウイルス流行期において、我々の大きな関心事の1つは、妊娠しても大丈夫なの?
赤ちゃんを授かった場合、母乳を与えていいの?等ということでしょう。

これらの問いについての答えは専門家の間でも、いまだに意見がわかれています。
しかし、これらの点につき、つい先日、ハーバード大学医学部の教員有志(主に産婦人科学、小児科学)が、Web会議を開き、配信しました。
そのタイトルは”Pregnancy and Breastfeeding During COVID-19”(新型コロナウイルス流行期での妊娠と授乳について)。
下記で配信されているので、(英語ですが)興味のある方は、ご覧ください。
https://postgraduateeducation.hms.harvard.edu/continuing-education/covid-19-resources-providers#April%2015

ハーバード大学のHanley先生によれば、中国のデータを見ると、COVID-19に感染した妊娠中の女性の多く(約83%)が、帝王切開または反復帝王切開をしているようです。
「新型コロナウイルス以前の帝王切開率と比較して、非常に高く、米国とは非常に異なる」ということでした。
日本も米国同様、中国ほどまで怖がらずともいいのではないかと思います。
ただ、これだけ長期にストレスが、自然妊娠、生殖補助医療による妊娠を問わず、妊婦及びそのご家族に与えられてる情況では、妊婦の帝王切開率も上昇していく可能性もあり、留意しています。

また、私が特に関心を持ったのは、新型コロナウイルス流行期の授乳に関する Bartick先生(ハーバード大学)の御意見です。
「多くの権威は、母乳は使い捨てであると考えており、母乳にはリスクがないことを認識していませんでした。しかし、私たちは母乳が赤ちゃんの最初のワクチンのようなものであることを知っています。それは本当に重要なことなのです。
まあ、私たちが母乳をやめるという選択肢を取るのは間違いなく保守的な戦略です。
安全であるかどうかわからない場合は、赤ちゃんを母乳で育てて保護する方が安全でしょう。
私たちは、母乳が乳幼児にとって非常に重要な公衆衛生戦略であることを知っています。
そして、自然災害や(今回のような)パンデミックでも、母乳育児は非常に重要なのです。」とおっしゃっています。

さすがは、この道の専門家とでもいうべき、ご見解だと思います。
私もまた、生殖医療及び産婦人科専門医として、今後も、日々更新される情報を吟味し、診療にあたっていきたいと思いを新たにしています。