子宮内膜症と卵子凍結

子宮内膜症と卵子凍結

医師の田口早桐です。

Oocyte vitrification for fertility preservation in women with endometriosis: an observational study
Fertility Sterility 4月号より

当院では卵子凍結を積極的に行っています。

卵子の染色体異常率が年齢とともに増えて、そのせいで妊娠率が下がり流産率が上昇するし、排卵誘発に対する反応も年齢とともに悪くなるので、将来の妊娠出産を希望する場合は、現時点で一番効果のある方法だからです。

今、凍結卵子で妊娠出産される方が増えてきていますが、例えば独身の時に40歳前後で卵子を凍結して、2~3年後に結婚して戻って来られた時、その時点で採卵した卵子からの受精卵と2~3年前に採卵した卵子からの受精卵とで比べると、圧倒的に以前の卵子のほうが受精率や分割率が良いです。数年でかなり差があるなあと思います。

卵子凍結を希望するきっかけとして結構多いのが、内膜症を指摘されて、というものがあります。
子宮内膜症が卵巣に存在すると、古い血液の溜まった袋ができて、その色から、チョコレート嚢腫、と言われる卵巣嚢腫ができます。婦人科で手術を勧められることも多く、手術後の卵巣の予備能低下などを心配して来られることも多いし、内膜症は再発も多いので、すでに一度手術をしていることも多いです。

今回紹介する論文では、卵巣の子宮内膜症の手術を行ったことで、その後の卵子凍結とその卵子を受精させて妊娠を試みた場合に結果にどのような影響があったか、ということを後方視的に調べています。

485例の、内膜症で卵子凍結した女性について、手術を受けた既往のあるなしで比較(採卵数、妊娠率、累積生産率)、さらに卵子凍結の年齢が35歳以下と36歳以上に分けて検討しています。

結果としては、35歳以下では、手術の既往があると、採卵数が少なく(6.6個/周期あたり)、妊娠率が低く(44%/移植あたり:ただし、受精卵のPGT-A染色体検査をすでに行っているものが多く含まれています)、累積妊娠率が低い(52%、手術既往なしだと72%でした)ということでした。
36歳以上では、手術既往の有無はさほど影響しなかったようです。

つまり、若いほど、子宮内膜症の手術が、その後の卵子凍結による妊娠率を下げてしまう。可能であれば、手術の前に卵子凍結をしたほうがよい、ということが言えます。
内膜症は年齢とともに進行するので、若いほど手術を勧められる傾向にあると思います。
その際でも、まずは薬物療法などを試みる、早めに卵子凍結をしておく、ということを勧めたいと思います。
内膜症の存在によって、採卵が困難だったりする例はありますが、その際でも、姑息的に卵巣嚢腫の内容液を吸引しておいてから採卵周期に入る、というような工夫をして、まず卵子を確保するのが良いと思います。