医療費の高騰について

医療費の高騰について

理事長の中村嘉孝です。

医療の最大の問題は医療費の高騰で、昔から、無駄な検査や薬価差益などが批判されてきました。そして、そのような無駄をなくそうと制度が次々と変わりましたが、医療費に大きく影響を与えることはありませんでした。

また、最近では高齢化が医療費の増加の原因として、よくいわれています。
しかし、医療費の高騰が問題となっているのは、高齢化が急速に進む日本だけではありません。

何が医療費高騰の根本的な原因かというと、医療技術の進歩であるというのが、医療経済学者の一致した見解です。昔は聴診器一本で診察をしていたのが、今はお腹が痛いといえば内視鏡、頭が痛いといえばCTをとります。万が一、早期の胃がんだったら、万が一、くも膜下出血だったらと考えると、決してやり過ぎということはありません。また、治療法も進歩し、臓器移植や核物理の実験装置であるサイクロトロンを使ったがんの治療など、莫大な費用のかかる治療法が行われています。

学生時代、病院実習で肝がんの切除手術を見学しました。患者さんは70才を越えていました。
10人以上の医師が最先端の機器をそろえた手術室にひしめき合い、格闘を続けていましたが、その光景を前に学生だった私は身震いをおぼえました。命の現場に感動したからでしょうか。
そうではなく、これからやって来るにちがいない受難の時代を、まざまざと見たからでした。
それが一世代前のことであったらなら、それは、間違いなく感動の身震いだったはずでした。

私自身が病気になったら、是非、最高の設備で一流の医師団に手術して助けて欲しいと思います。
しかし一方で、自分が病気になるかどうかわからない時には、万一の保険料を負担するより、もっといい車に乗りたいとも思います。
本来は、その 折り合いをどうつけるかということに過ぎないのですが、現実に病気に苦しむ人を前にして、「これ以上はお金がないから無理ですね」とは誰も言えないことが、医療費高騰の根本原因なのです。