女性医師は不妊症のリスクが高い

女性医師は不妊症のリスクが高い

こんにちは。医師の船曳です。


https://www.mdlinx.com/article/female-physicians-are-at-an-increased-risk-of-fertility-complications/MmrxruHvWm8DwJsoMHrFF

これはMay 12, 2023 アメリカの医師向け情報サイトに掲載された記事です。
非常によくまとまっていたので、そのまま※以下にM3の記事を添付させていただきます。

記事をまとめると、こうなります。

医師の研修は平均10年かかるため、平均31歳でようやく研修を終えることになる。一般の初産年齢は27歳だが、女医は32歳である。この5歳の差は、たった5歳であるが、生殖には大きな影響がある。というのは、女性の生殖能力のピークは10代後半から20代で、30歳以降、とくに38歳以降は低下するからである。また高ストレスな生活も悪影響を与える。

医学生や医師が、将来の不妊症のリスクについての知識を高め、健康診断の一環として、卵巣予備力検査や精液検査を受けることを推奨したい。また、柔軟な働き方や、不妊治療や卵子凍結を助成できる保険誘導がのぞましい。

以上の内容は、本当にそのとおりだと思い強く共感するものでしたので、ブログとしてとりあげさせていただきました。

将来女医を目指す方、卒業後の10年、とくに最初の5年は、他になにもできないと考えておいたほうがいいと思います。
妊娠や出産を強く希望される場合は、早めに卵子凍結をしておく、早めにこどもをつくっておく、のどちらかの選択をお勧めしたいと思います。また、こどもをつくる場合は、他の人の協力を求めることを躊躇しないことです。なるべく多くの方の協力をえられる体制を積極的につくっていく必要があります。

卵子凍結をする場合は、採卵後の副作用の心配もふくめて、最短数日程度休みがとれるときにされるのが安心でしょう。
月末日曜の午後2時に卵子凍結セミナーをオンラインでしているので、HPから参加いただければと思います。



重要なポイント

  • 女性医師は、一般の人と比べて、不妊症や妊娠喪失を経験する確率が高くなる。
  • 多くの女性医師はこのリスクに気づいておらず、家庭を持つことを考え始める頃には、支援なしに妊娠する能力が低下している。
  • 教育、サポート、政策の変更は、女性医師の妊孕性の格差を減らすための重要な方法である。

開業医になるまでの道のりは長く、過酷なものです。医師を目指す人は皆、医学の学位を取得するために膨大な時間、エネルギー、経済的な犠牲を払っていますが、一部の女性医師は、不妊や妊娠合併症のリスクが高まるという代償を払っています。

このような潜在的な問題を認識することで、研修中の女性医師は、家族のための計画を立てる際に考慮すべき選択肢をより理解することができます。


女性医師が抱える不妊症の統計

Journal of Women’s Healthに掲載された調査によると、妊娠を試みた女性医師の24%が不妊症と診断され、その割合は一般の人々の2倍です[1][2]。 さらに、JAMA Surgeryに掲載された2021年の調査結果では、調査対象の女性外科医692人の42%が妊娠喪失を経験し、これも一般の人々の2倍の割合です[3]

医学部とそれに付随する研修医やフェローシップの研修を終えるには、平均10年かかります。
女性医師の場合、これは平均31歳で医学研修を終えることを意味します。

医師以外の女性の場合、初産時の平均年齢は27歳ですが、女性医師の場合は32歳です。

この5年の差は、表面的にはたいしたことがないように見えますが、女性の生殖能力は年齢に大きく影響されるのです。米国産科婦人科学会(ACOG)によると、女性の生殖能力のピークは10代から20代後半で、30歳までに低下が始まります[4]。32歳までに生殖能力の低下は著しくなり、37歳までに生殖能力はそれ以前よりもはるかに速いペースで低下します[5]


高ストレスな仕事では改善されない

科学的なことはさておき、医療に携わる女性の不妊や妊娠に伴う合併症の原因として、ライフスタイルの負担も非常に大きいものがあります。

ハイペースでストレスの多い職場環境は、睡眠不足、食生活の乱れ、運動不足を招き、これらはすべて不妊症の原因となります。


意識することで不妊症の問題を回避できる

不妊症の問題についての早期教育は、この問題と闘い、女性医師が出産で直面する可能性のある問題に先んじる機会を与えるための重要な要素です。

不妊症に関する潜在的な合併症を認識しておくことで、女性医師は前もって計画を立てたり、合併症が発生した場合の代替手段を検討したりすることができます。

American Medical Women’s Associationのデータによると、女性医師の53%が、後の不妊症の問題について知らされていれば、より早く妊娠を試み、16.7%が生殖能力を維持するために冷凍保存を利用したであろうとしています[7]

このため、医学部入学前の学生、医学生、さらには研修医や実際の診療に携わる医師に対して、不妊症の問題の発生率が高いことを教育することは極めて重要です。ACOGと米国生殖医学会は、不妊症の管理と評価に関する様々なオンライン教育コンテンツを提供しており、このコンテンツは医学部のカリキュラムの一部として機能できます。

問題意識を高めるという教育的な要素だけでなく、関連する政策的な取り組みによって、女性医師の不妊症の見通しを改善することができます。Academic Medicine誌に寄稿した著者らは、行動への呼びかけとしていくつかの戦略を提案しています。


救済策としての政策変更

不妊症の評価と管理へのアクセスは、不妊症の格差を是正する手段です。医師を雇用している機関や医学生の研修プログラムを主催している機関において、新しい研修生や教員の健康診断の一部として、不妊検査や卵巣予備能や精子の質の評価がデフォルトで含まれるようになれば理想的でしょう。すべての参加者のデフォルトプログラムにこれらのタイプの評価を含めることで、女性が時間を割いてこれらの介入を求めるときに生じる同僚からの憤りや職場での否定的な意見の一部を改善することができます。

医療機関は保険会社と連絡を取り、不妊治療や卵子凍結に関連する高額な費用を克服するために、手頃な保険カバーを提供するように誘導する必要があります。特に、研修中の医師にとっては、このような費用は抑止力になり得るものです。

最後に、医療機関は、不妊治療のために不在にする必要がある女性医師のために、柔軟な労働政策と臨床保障を整備する必要があります。

女子医学生の場合、大学院医学教育認定評議会は、学生の幸福を確保するために、臨床プログラムに出産・育児休暇に関する方針を文書化することを推奨しています。


このことが意味すること

不妊症は、ストレスが高く、時間のかかる仕事をすることが多い女性医師にとって、間違いなく課題です。不妊症は蔓延していますが、早期発見により、家庭を築きたいと願う人々の合併症を改善できることを知っておくのは重要です。


資料

  1. Stentz NC, Griffith KA, Perkins E, et al. Fertility and childbearing among American female physicians. J Womens Health (Larchmt). 2016;25(10):1059–1065.
  2. Female physicians face higher rates of infertility and pregnancy complications. ASH Clinical News. November 24, 2021.
  3. Rangel EL, Castillo-Angeles M, Easter SR, et al. Incidence of infertility and pregnancy complications in US female surgeons. JAMA Surg. 2021;156(10):905–915.
  4. Having a baby after age 35: How aging affects fertility and pregnancy. American College of Obstetricians and Gynecologists. February 2023.
  5. Female age-related fertility decline. American College of Obstetricians and Gynecologists. Committee Opinion, Number 589. March 2014.
  6. Marshall AL, Arora VM, Salles A. Physician fertility: a call to action. Academic Medicine. 2020;95(5):679–681.
  7. AMWA’s Physician Fertility Initiative. American Medical Women’s Association. 2023.