40代の卵子でも20代の卵子のようになった!

40代の卵子でも20代の卵子のようになった!

医師の田口です。

イスラエルの研究チームが卵子の若返りの方法を見つけました。Aging Cell誌に発表されました。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/acel.13568

我々の細胞の中のDNA配列の中に、ウィルス様の動きをする部分があり(自身のコピーをゲノムの別の部位に再び組み込むことができる)、DNAの損傷を引き起こすことが知られています。

卵子についても同様のことが考えられ、年齢によって卵子の「質」が下がるのに上記のメカニズムが関与している可能性があります。

エルサレムの Hebrew University の Michael Klutstein博士のチームは、マウスとヒトの各年齢の卵子について、DNA損傷の程度や成熟度合い、そして染色体の状態が、抗ウィルス剤を加えることによって改善することを報告しました。抗ウィルス剤が、上記のメカニズムを抑制するためではないかと研究チームは考えています。

もし臨床に使えれば、今まで事実上卵子凍結もしくは早めの体外受精+胚凍結しかなかった卵子老化に対する処方箋が、一気に広がることになります。
関連報道記事:https://themedialine.org/life-lines/in-fertility-breakthrough-israeli-scientists-reverse-aging-process-in-human-eggs/

著者らは海外報道機関のインタビューで “In general, in humans, old oocytes are ones above the age of 35 and the acute ones are over 40,”、“After treatment, they behaved more like eggs in their 20s.” と答え、40代の卵子でも20代の卵子のようになったと言ってます。

内容の要旨
著者らは、加齢に伴うヘテロクロマチンの消失が、ヒトのプロフェーズIの停止卵子においても起こることを示した。若い卵母細胞でヘテロクロマチンマシナリーを人工的に阻害すると、レトロトランスポゾンの発現が上昇し、卵母細胞の成熟不全が生じる。レトロトランスポゾン逆転写酵素をアジドチミジン(AZT)処理によって阻害すると、年長卵母細胞の成熟障害とDNA修復機構の活性が部分的に回復する。さらに、SIRT1活性化分子SRT-1720によるヘテロクロマチン機構の活性化、あるいはプラスミドエレクトロポレーションによるSirt1またはEzh2の過剰発現により、高齢の卵母細胞は(構成的な)ヘテロクロマチンを増加させ、レトロトランスポゾン発現を抑制し、成熟率を上昇させることが明らかになった。これらの結果は、ヘテロクロマチンと関連したクロマチンマークの消失と特定のレトロトランスポゾンの活性化を特徴とし、DNA損傷の原因となり卵子の成熟を阻害する卵子の老化における重要なプロセスであることを示している。

ちなみに、当院で行っているレスキューIVMに関する研究でも、我々は、抗酸化物質の添加が成熟に寄与すると考えており、メカニズムとしてSIRT1の活性化を通じ未成熟卵子の成熟化に貢献する可能性を考えています。今回の論文で、深い基礎メカニズムが示されたとともに、たぶん、AZT(この研究で使用した抗ウィルス剤)は、もっと強力な卵子成熟化効果を示すのだと思われます。