反復着床不全~今月の日本生殖医学会での報告~

反復着床不全~今月の日本生殖医学会での報告~

医師の田口早桐です。

今月日本生殖医学会学術講演会が開催されました。もちろんオンラインです。講演会のなかでの、反復着床不全に対する議論に関してご報告します。

まず、慢性子宮内膜炎に関して。定義が一定していないなど、あいまいな要素は多いのですが、実は慢性子宮内膜炎の状態になると、内膜の免疫系のバランスが崩れて、黄体ホルモンに対する感受性が悪くなるという議論がありました。免疫系のバランスというのは、Th1/Th2比などです。

この比に関しては、当院の場合、反復着床不全に対して血液検査で測定して、Th1優位の場合には免疫抑制剤を使用する等の対策を取ります。もしかしたら、この場合でも、同時に黄体ホルモンの増量を考えるとよいのかも知れません。Th1/Th2比と内膜の感受性に関して、関連があるという示唆は有用でした。

ただ、黄体ホルモン製剤にもいくつか種類があり、どの製剤をどのように組み合わせるのか、単に増量するのみでよいのか、というのは今後の課題です。

子宮内膜ラクトバチラスについて。これは、EMMAという検査等で最近希望する方が増えてきました。当院でも時々行います。ラクトバチラス属、いわゆる乳酸菌が、善玉菌として、子宮内膜の菌の90%以上であることが望ましいという説です。乳酸菌は体のいろんな場所で(腸内など)、良い効果をもたらします。しかし、内膜に関しては、まだまだエビデンスが定まっておらず、今のところ当院では、ご希望なら行うが、検査結果の明確な解釈はできません、というスタンスです。もし善玉菌の割合が低い、という結果になった場合、乳酸菌を経口摂取したり、膣内に入れたりして、子宮内の改善につながるのか、という疑問もあります。

報告では、ラクトバチラス属が非常に低い場合でも、妊娠出産に至ることや、割合によって妊娠率に差がなかった、とのことでした。ただ、今後、より詳細に関する報告が出てくると思いますので、待ちたいと思います。

反復着床不全に対する内膜の検査としては、あと、ALICE(これも子宮内膜炎の検査ですが、内膜の菌の遺伝子解析による検査)とERA(子宮内膜受容能検査)があります。

着床しなかった原因のほとんどは胚の染色体だと考えられますが、少しでも着床環境を改善するためには、移植前に、上記の検査を受けておくのが安心かもしれません。