着床不全患者に対するGnRHagonist+レトロゾールの効果

着床不全患者に対するGnRHagonist+レトロゾールの効果

医局カンファレンスです。

着床不全患者に対するGnRHagonist+レトロゾールの効果についての論文を紹介します。
(Fertil Steril 2019;112:98-103)

後方視的検討です。
良好胚盤胞を2回連続移植しても妊娠にいたらない523名について、3回目の移植前に

① 何もしない
② GnRHagonist(リュープリン)投与を2周期(60日)行う
③ GnRHagonist(リュープリン)+レトロゾール(5mg/日)投与を2周期(60日)行う

その後移植し妊娠率について検討しました。患者背景に違いはありませんでした。
結果としては、臨床妊娠率(7週相当が確認)および生産率は①②よりも有意に③が高い結果となりました。
(臨床妊娠率:①40% ②42% ③63%、生産率:①34% ②36% ③56%)

(解説)
着床不全とは良好胚を移植しても着床しない状態のことです。日本産婦人科医会の定義では「良好胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠にいたらない場合」と定義されています。明確な世界的な基準があるわけではないですが、2回連続して妊娠に至らないことや合計の移植数が初期胚を4個もしくは胚盤胞2個移植しても妊娠に至らないことが世界的には一般的はようです。この論文でも、良好胚盤胞を2回(1個ずつ)移植しても妊娠に至らない方を対象としています。

レトロゾールは日本では、閉経後乳がんの治療薬として用いられ、卵巣局所でのテストステロンおよびアンドロステンジオンをエストラジオールおよびエストロンに変換する酵素を阻害し、エストロゲン生合成を抑制するものです。保険適応にはなっていませんが、不妊領域では排卵誘発剤として活用されています。これは、エストロゲンが低下することによって視床下部や下垂体へのnegative feedbackが低下し、卵胞発育に必要なFSHの分泌が増えることで卵胞発育を促しています。

また最近では子宮内膜症の治療薬としても注目されています。今回のこの研究に関しても、子宮内膜症の診断には至っていないが、着床不全の患者には超音波では診断されないような初期の子宮内膜症があるかもしれず、それが着床しない原因かもしれないという前提のもとにGnRHagonist(リュープリン)+レトロゾール投与の効果を検討しています。以前の論文でも内膜症患者に両方投与することで妊娠率、生産率の上昇や反復着床不全の患者への生産率が上昇したという報告があります。

レトロゾールを追加する利点としては、①GnRHagonistのフレアアップ現象を抑えることができる(初期の段階からエストロゲンを低下させられる)②内膜症の抑制③インテグリンと呼ばれる着床に関わる接着分子の発現を補助する効果があるのではと書かれてありました。また、GnRHagonist単独投与ではどうして効果がなかったかについては、投与期間が短かった、軽い内膜症に対する治療効果がない可能性が考えられます。

今回は後方視的検討なので、結論づけることはできませんが月経痛が強い方や内膜症が疑われる方には有効な治療になるかもしれません。前方視的ランダム試験での検討を待ちたいと思います。