精子の酸化障害

精子の酸化障害

医師の船曳美也子です。

Influence of ejaculatory abstinence on seminal total antioxidant capacity and sperm membrane lipid peroxidation Paul B. Marshburn,M.D., North Carolina Vol.102 No.3 September 2014 p705-710

今回は、人工授精、体外受精の前の禁欲期間は、4日よりも1~2日がよいかもしれない、それは、短いほうが、精液の抗酸化力が高いから、という報告です。

精子は、精巣でつくられてから、精巣上体で保管され、輸精管を通って、射精されます。
この移動中に存在する死んだ精子や白血球からは活性酸素がでており、少量だと精子は成熟しますが多いと精子は酸化障害をうけてしまいます。

精子の酸化障害には、精子のDNAがうける障害、精子細胞膜が脂質過酸化反応によりうける受精能力障害、があります。

精子が酸化障害をうけると、受精障害や男性不妊の原因になります。
酸化障害をうけると、精子は抗酸化力が弱くなり、さらに酸化障害をうけやすくなるという悪循環にはいってしまいます。そのため、精液は抗酸化力をもつことで、活性酸素による精子の酸化障害をへらしています。

筆者らは、以前、人工授精前の禁欲期間を短くすると、運動精子の数は減るが、妊娠率は上がると報告しています。彼らは、禁欲期間を短くすることによって、精子が輸精管や精巣上体でうける活性酸素による酸化ストレスが少なくなる、と考えています。

今回は、同じ男性で、禁欲期間を4日にしたときと、1日にしたときの、精液中の抗酸化力(TAC)はどちらが高いか、精子細胞膜の酸化障害である脂質過酸化反応(LPO)はどちらが高いか、を調べました。

すると、LPOは変化なし、TACは1日のほうが良い、という結果になりました。

つまり、禁欲期間の短縮は、精子の細胞膜障害には影響するほどではないが、精液の抗酸化力は高くなるので、おそらく、精子が活性酸素によるDNA障害はうけにくいのでは、という推察ができます。

もちろん、精子的には単に射精だけでよいのですが、性交渉をもつことで、オキシトシンが分泌され、男女とも幸福感があがります。ただでさえ、ストレスの多い不妊治療です。人工授精前の性交渉はよいかもしれないですね。