Fertility Sterility 2014年1月号より

Fertility Sterility 2014年1月号より

医師の田口早桐です。

Three-parent in vitro fertilization: gene replacement for the prevention of inherited mitochondrial diseases

「三人の親による体外受精」というタイトルのレビューです。
どういうことでしょう。

ミトコンドリア病という病気があります。ミトコンドリアというのは細胞内小器官で、細胞の活動に必要なエネルギーを生み出すところですがこのミトコンドリアに異常が生じるとミトコンドリアのはたらきが低下して、様々な症状が引き起こされます。

ミトコンドリアというのは体中全ての細胞に存在していますから、極めて多彩な症状が現れることになります。けいれん、発達の遅れなどの脳の症状、物が見えにくい、音が聞こえないなどの感覚器の症状、運動ができない、疲れやすいなどの筋の症状など、数え上げればきりがありません。
その中でも、比較的エネルギーを多く必要とする神経、筋、心臓などの臓器の症状が現れやすいと考えられています。ミトコンドリア病の症状の特徴は、あらゆる年齢の方に、あらゆる症状が、あらゆる組み合わせで現れることと言えます。やっかいな病気です。

ミトコンドリアは実は全て母親から受け継がれます。あなたのミトコンドリアは全てあなたの母親から来たものです。父親からは、受け継ぐことがありません。
受精のときに母親の卵子に父親の精子が受精しますが、父親由来のミトコンドリアはほとんど混じらない、もし混じっても、消滅することが知られています。
ですから、ミトコンドリア病の女性は、子供への病気の遺伝が避けられないことになります。何か方法はないのでしょうか。

そこで考え出されたのは、他の健康な(ミトコンドリア病でない)女性の卵子からできた受精卵の核を抜いて自分の受精卵の核を移植してしまう、という方法。
ご存知のように核に全ての遺伝情報が詰まっていますからその受精卵が育ってできた赤ちゃんは、遺伝的にはミトコンドリア病の女性の子供だけど、ミトコンドリアは自分の母親から受け継いでいないで、他の女性の異常のないミトコンドリアを受け継いでいる、という状態になります。
つまり、遺伝子(核)は母の卵子と精子から、卵の細胞質(ミトコンドリア部分)は、他の女性から、ということになります。

もう一つの方法についても書かれています。

受精させる前の卵子の状態から、染色体部分だけを取り出して、同じ部分を除去した健康な卵子に移植して、着床寸前の状態まで育つ事を確認しています。

これを受けてなのかどうか、早速FDAが遺伝子(操作)医療について専門家との会合を持ったそうです。
医学の進歩で一人でも多くの人が苦しみを逃れることは喜ばしいことで、ついつい勇み足になりますが、やはり現時点ではまだまだ検証が待たれる段階のようです。