子宮内膜症と不妊…その2

子宮内膜症と不妊…その2

医局カンファレンスです。

子宮内膜症に関係する最近の論文を紹介したいと思います。
今年8月Fertility and Sterilityからです。

片側のみに認められていたチョコレート嚢胞に対し腹腔鏡下嚢胞摘出術施行し、その後、体外受精に至った患者さんにおいて、摘出嚢胞径が4cm未満と4cm以上にわけて比較検討された論文が発表されました。

85人の患者さんを対象に検討した結果、両群の年齢、手術後からの期間、総HMG単位数、採卵総数、妊娠率に有意差はみとめられませんでしたが、どちらの群も年齢が20台後半から30台半ばにかけてで、妊娠率が4cm未満で19%、4cm以上で24%と低い結果でした(通常体外受精におけるこの年齢での妊娠率は30%-40%です)。

また、それぞれの手術卵巣と正常卵巣における胞状卵胞数、卵胞発育数および採卵数を比較してみると、4cm以上の患者では、手術卵巣が正常卵巣に比べて胞状卵胞数、卵胞発育および採卵数が優位に少ない結果でした。しかし、4cm未満の患者では、有意差は認められませんでした。
手術をしたときの『卵巣へのダメージ=卵の損失』につながっていることが示唆されました。
さらに、チョコレート嚢胞周囲の卵巣組織は過度の酸化ストレスにさらされており、さらにその酸化ストレスは採卵した卵に対してもアポトーシス(細胞死)や壊死を引き起こすため、内膜症患者における受精率や良好胚率の低下をまねいていると考えられています。

世界的に、チョコレート嚢胞の摘出基準が4cm以上で推奨となっています。
4cm以上になってくると、癌化が認められるようになってきます(4cmで約0.7%に卵巣癌合併)。

現在日本の子宮内膜症取扱い規約では、卵巣チョコレート嚢胞の摘出を考慮していく基準は嚢胞の長径が4cm以上、年齢が40歳以上であることが記されています。
ただし、そうなってくると不妊治療を行うにおいて、頻繁に遭遇します。先に手術を優先させていると、高齢と子宮内膜症、手術でのダメージのトリプルで卵巣機能の低下をさらに進行させてしまいます。
よって、(特に高齢で)チョコレート嚢胞が10cm未満、挙示希望であるならば、画像診断、腫瘍マーカー、超音波で十分に経過をみることを前提に手術よりまず不妊治療を優先させていくことがよいのではと考えます。

また2008年のFertility and Sterilityには、軽症の子宮内膜症患者(明らかなチョコレート嚢胞認めず、腹腔内に小さい病変のみ)のAMHは同年齢の卵管性不妊患者と比較すると優位に低い結果になっていました。

以上のことから、大きさに関係なくチョコレート嚢胞を認めておられる方、子宮内膜症が疑われるような症状(月経痛、下腹部痛、性交痛、排便痛など)がありなかなか妊娠に至らない方、年齢にかかわらず、早めに不妊専門のクリニックを受診されることをお勧めいたします。