児童虐待…その1

児童虐待…その1

理事長の中村嘉孝です。

ある慈善団体に入っているのですが、今期になって社会公益委員長を拝命しました。名誉なことですが、正直に言うと「やっかいなことになったな」が本音でした。

もちろん、私は仕事が現役なので、本業に差し障りがないか心配がありました。しかし、なにより「やっかいだ」と思ったのは、委員会のテーマが「児童虐待」だったことです。

20年ほど前の医学生の時、公衆衛生学で児童虐待についての講義がありました。
担当の学生グループが発表する形式だったのですが、彼らは児童虐待の事例や行政の制度について紹介をしたあと、「このような虐待は、子育てのストレスから誰もが起こしうることであり、子育てをサポートできる悩みの相談窓口が必要」と結んで発表を終えました。

当時、関西テレビで児童虐待について啓蒙CMを頻繁に流していましたが、その内容も「子育てに悩んでいたら、一人で悩まないでお電話下さい」というものでした。
しかし、児童虐待の陰惨な事件と「子育てに悩む」という日常的な話は、どう考えても噛み合いません。

イライラしているときについ子供に手を上げてしまった、というようなことはあるでしょうが、それと、熱湯に何度も子供をつけるというような残酷な事例は根本的に違います。
異常な事例の精神病理学的な分析が重要なのであり、口当たりのよい啓蒙活動は、むしろ、そのような事例の本質をごまかすだけではないでしょうか。
そう思って講義の最後に質問してみましたが、指導教官は「啓蒙が大事」と繰り返すだけで、まったく噛合わないまま、時間切れとなりました。

そもそも、児童虐待とは一体何なのか。報道される虐待事件の、冷酷無比な殺され方を見れば、「子育てに悩むあまり」などという次元の話では決してありません。
人間のおぞましい本性を直視しなければならない問題であることは明らかだと思います。(続く)