ビールと統計

ビールと統計

理事長の中村です。

蒸し暑いですね。
こんな夜には是非ビールといきたいところですが、ビールの中でも黒色で濃厚な味わいのギネスを飲むと、私は一人の統計学者のことを思い出します。

統計学の中に検定というものがあります。

たとえば、新しい薬が子宮内膜症に効果があるかどうかを調べようとします。
子宮内膜症がひどくなるとCA125という腫瘍マーカーが血液の中に増えますから、薬を飲んでその値が低くなれば、効果があるということです。

薬を出したとして、中には腫瘍マーカーの値が90から30と大幅に下がる人もいれば、一方で、50から60と逆に悪化する人もいます。そして、仮に何十人かの患者で試し、腫瘍マーカーが平均して15下がったとします。
それだけで「効果がある」といえるでしょうか?

それは、たまたま、下がった人が多かっただけなのかもしれません。
それでは水掛け論になってしまうので、この結果が、どれほど「たまたま」なのかを計算し、そんなことが偶然に起きる確立が5%以下のことであれば、むしろ素直に考え、「たまたまではなく、効果があるから違いが出たのだ」と判定することにします。それが、検定の考え方です。

状況に応じていろいろな種類の検定がありますが、その中に「Studentのt検定」というものがあります。

ウィリアム・ゴセットという人が考え付いた検定法なのですが、「Student」というペンネームで学会誌に発表したために、そう呼ばれています。
ゴセットは、ギネスビールの技師として酵母の管理をしていました。
「Student」の成果の大半は帰宅してからの研究によるものでしたが、会社との守秘契約のためにペンネームで発表がなされました。

私はギネスを飲むたびに、この「学生」という謙虚なペンネームのことを思い出すのです。