排卵誘発神話…その5

排卵誘発神話…その5

医師の田口早桐です。

前回、大事なことは、「もう予備能がないから無理。」とか「FSHが高いから今周期は無理でしょう。」とあまりさっさと判断してしまわずに、いろいろ試してみることが大切です、と書きました。

例えばクロミッドを飲んでday8とかに卵胞サイズをチェックして育っていないという場合、すぐに注射を打ち、反応がないといってリセット、というようなことがよく行われます。そして何周期も同じことを繰り返していることもあります。

何度もくりかえしになりますが、そのときの卵巣の状態に合わせて、もう一度内服薬を試すとうまく作用することもありますし、連日の注射に反応する場合もありますから、私は、すぐに諦めないようにしています。

さて、もう一つの排卵誘発の難症例である、PCO(polycystic ovary: 多嚢胞性卵巣)の場合はどうでしょうか。

PCOはご存知の通り、普段は非常に排卵が不規則で月経周期が長く、無排卵のこともしばしばあります。
ただ、卵巣内に卵子が少ないのではなく、排卵に至る卵胞の発育が障害されている状態なので、卵巣内には発育を待つ卵胞がたくさんスタンバイしています。
卵巣内に小さな卵胞がぎっしり並んでいる様子が超音波でみるとネックレスのようだということで「ネックレスサイン」と呼ばれています。

卵胞を発育させようとして排卵誘発剤を使用すると、スタンバイしていた小卵胞が一斉に発育して、複数の卵胞が発育する傾向にあります。
タイミング法やAIHの時は、3個以上の卵胞発育を認める場合、多胎予防の観点から、周期をキャンセルすることになります。キャンセルが続いていつまでもタイミングが取れない、ということも起こります。

体外受精の場合は多くの卵胞が発育することは望ましいのですが、あまりに多いと、卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome : OHSS)になってしまいます。
卵巣が腫大すると共に、卵胞から分泌されるエストロゲンが過剰になって血管内の水分が血管外に移行してしまい、腹水貯留と血管内脱水(血栓の形成のリスクが上がる)を引き起こす病態です。

PCOはOHSSの最大のリスクファクターです。排卵誘発に際しては、OHSSを回避でき、かつ適度に卵胞も育つ方法がベストです。