黄体期の排卵誘発

黄体期の排卵誘発

医師の田口早桐です。

興味深い論文を読みました。Fertility Sterility 1月号からです。

Luteal-phase ovarian stimulation is feasible for producing competent oocytes in women undergoing in vitro fertilization/intracytoplasmic sperm injection treatment, with optimal pregnancy outcomes in frozen-thawed embryo transfer cycles

体外受精の際の排卵誘発は、普通月経開始して3日目頃から始めることが多いのですが、黄体期に誘発をしてみた、という論文です。
排卵が終わって黄体期に入ってから、普通の体外受精の誘発と同じように注射を開始して、月経周期と無関係に卵胞が発育したら、LHサージを誘発して採卵します。
卵の発育が遅い場合は黄体ホルモンを飲んで黄体期を延長させます。採卵できた卵子の数は平均13個、受精率、分割率はそれぞれ69%、87%と充分問題ない数字でした。

子宮内膜が同期していないので受精卵は一旦凍結して別周期に移植していますが、一度目の胚移植での着床率(GSが確認できた割合)は43%で、これも問題ない数字でした。

面白いのは、このやり方だと、premature LHサージが起こらず、早発排卵にならなかったということと、卵巣過剰刺激症候群がなかったという点です。
どちらも刺激周期において体外受精の成績を下げて危険を誘発する主要な要因なので、それが起こらないとなると、非常にやりやすくなります。

では、そんな時期からの誘発で卵胞が育つのかというと、論文によると、ポイントはレトロゾール(商品名フェマーラ、アナストロゾール)をHMG注射と一緒に用いることにあるとしています。
著者らが、前段階の実験としてHMG単独で刺激をしたときにはそれほど卵胞が育たなかったらしいです。
レトロゾールは卵巣内のアンドロゲンからエストロゲンへの変換を阻害します。
卵胞発育の初期、つまり極々小さい卵胞が少し大きくなってくる段階で、アンドロゲンが必要だと言われています。排卵直後に8mm以下であった卵胞が、刺激によって発育してきたようで、レトロゾールによって発育が助けられた可能性があると推察されています。
排卵直後10mm以上のものは黄体化してしまい、発育しないようです。

排卵誘発は、日々様々なパターンで行いますが、出尽くしたようでまだまだいろいろ工夫の余地があります。
一人一人の卵巣の状態にぴったり合った方法を選択していきたいですね。