シーマンシップ 続き

シーマンシップ 続き

理事長の中村嘉孝です。

シーマンシップは精神論ではなく、技術論だと申し上げましたが、それでも「シップ」と呼ばれるのは、一流の職人に哲学を見るのと同様、型通りの技術を何度も反復して習得する中で、一種の精神的態度が育まれていくからだと思います。

当院のエンブリオロジストには理学系の大学の出身者がいます。
それまでは、研究室で動物の卵ばかりを相手にしてきたわけですから、臨床検査技師からエンブリオロジストになった者と違い、医療職としての意識が薄いところがあります。
実際、理学系の研究者と話していると、実験動物相手に思いついたことを気軽に色々と試すのと同じ感覚で、医療の体外受精を考えている方もおられ、しばしば驚きます。

しかしながら、最初はそんな感覚の彼女たちも、毎日、朝早くから夜遅くまで培養室で卵を見つめつづけているうちに、そして、時折、無事に出産された患者様から、赤ちゃんの写真を送っていただいたりしているうちに、医療に携わる者としての自覚が生まれてきます。

最近の医学部では、模擬患者で診察のマナーを試験するそうで、聴診器を胸に当てる前に、自分の手で暖めていないと減点されるそうです。
また、国家試験では倫理問題として「研究のために患者を犠牲にしてよい。○か×か」というような問いが出題されるようになっています。

まことに愚かなことだと、私は思います。

コミュニケーション能力が高く、心構えについて問われれば、そつなく答える医者が、それほど価値のあるものでしょうか。豪華客船には、見た目が頼もしく、ウィットに富んだ会話ができて、エスコートが上手、そんな船長が、たしかに必要でしょう。

しかし、危機に瀕して逃げ出さないのは、本当のシーマンシップを身に着けた船長だけだと思います。