活性酸素は常に悪ではない

活性酸素は常に悪ではない

医師の船曳美也子です。

Oxidative stress and redox regulation of gametogenesis, fertilization, and embryonic development Satorhi Tsunoda Repord Med Biol(2014) 13: 71-79

酸化ストレスと、齧歯類の配偶子形成、受精、胚発育について
「活性酸素は、酸化ストレスの原因となり、細胞死や細胞老化を引き起こす」という内容、よく耳にしますね。今回は、活性酸素が生殖にどうかかわるかのレビューです。

1 )活性酸素とは
活性酸素とは、酸素に電子が余分についたもので、体内で作られるものに、過酸化水素や、水酸化ラディカルがあります。

2 )活性酸素がいつ、どこでつくられているか
では、活性酸素がいつどこで作られているかというと、主に、細胞内のミトコンドリアです。
ミトコンドリアは、呼吸により体内に入った酸素から、エネルギー産生します。細胞内では、タンパク質のゴミなど、異常なものが生じると直ちに分解されます。
しかし、この仕組みがうまくはたらかず、ごみがたまると、ミトコンドリアの機能が落ち、エネルギー産生が不十分になると同時に、活性酸素が増えます。
これは、全身の体細胞だけでなく、胚や卵子の細胞でも同じです。

特に活性酸素がふえる病的な状態としては、炎症がおこったとき。虚血になった血管が再還流する時に増えます。この炎症と同じ状態が、正常の排卵でもおこっています。
卵胞内には何種類もの炎症性物質や活性酸素が存在しています。ですので、排卵回数が多いと、それらが、卵巣内のミトコンドリアDNAの損傷や、脂質やタンパクへの酸化障害をおこします。

また、ミトコンドリア以外でも活性酸素が産生されるのは、女性ホルモンなどのステロイドホルモンを産生する場所である顆粒膜細胞や黄体、つまり卵胞です。
卵胞は女性ホルモン、黄体ホルモンを生成しますが、ホルモンの元のコレステロールを酸化、還元するときに、副産物として活性酸素が産生されます。
ですから、顆粒膜細胞が構成する卵胞内に活性酸素は必ず存在します。が、増えすぎると、卵胞内にいる卵子にダメージをあたえてしまいます。

3 )活性酸素はなぜ存在するか?
では、活性酸素が悪なのかというと、悪になるのは、量が増えたときであり、少量の活性酸素は、細胞分裂に必須であることがわかってきました。活性酸素の一種、過酸化水素が、細胞の染色体分裂(有糸分裂)にシグナルとして重要な働きをしています。

専門的な話になりますが、「キナーゼ」と、「フォスフアターゼ」が、染色体の分裂や細胞分化に決定的に重要な役割をもちます。過酸化水素が、フォスフォチロシンフォスファターゼの一部を酸化させることで、この2者の活動性のバランスをたもっている、のです。

4 )つまり、活性酸素は、細胞にとって…
細胞が成長するときにでてくる少量の活性酸素は、フォスフォチロシンフォスファターゼを一過性に抑制することで、染色体分裂を促進する。
が、活性酸素が多量になり、細胞核に達し、DNAを酸化してしまうと、細胞成長をとめ細胞死させる。

細胞が若い間は少量の活性酸素でさらに分化増殖し、老化して活性酸素がたまると細胞死する、つまり、活性酸素の量で細胞寿命をコントロールしているわけですね。
何億年と続く生物の進化の中で獲得したプロセスなのでしょうか、自然の驚異に慄然とする思いです。