培養液と胚の遺伝子発現

培養液と胚の遺伝子発現

医師の船曳美也子です。

Differences in gene expression profiles between human preimplantation embryos cultured in two different IVF culture media Sander H.M.Klejikers, The Netherlands Huma Reproduction, Vol.30,No.10 pp.2303-2311,2015

本日の論文は、培養液により、胚の遺伝子発現が異なったか?です。
妊娠するのには、染色体が正常な胚が良いわけですが、染色体以外に、どんな遺伝子が発現するかでも関係しています。
その遺伝子発現が、培養液により影響をうけるかという論文です。

データはオランダの複数の施設で集められています。
培養液の一つはG5のシーケンシャルメディウム、もう一つはHTF(human tubal factor)mediumの単一メディウムを使用。原則D2またはD3で胚を移植または凍結します。今回の研究では、形態不良のため移植・凍結しなかった胚をそのままD6まで培養し胚盤胞になったものを使用しています。
二つのグループから、受精法、女性年齢、胚盤胞グレードが同じものを10組20個の胚盤胞を選んでそのmRNAを分離増幅させて、遺伝子を調べています。

すると、細胞分裂にかかわる遺伝子発現に差を認めました。アポトーシスに関わる遺伝子すべて、タンパク分解に関わる遺伝子、酸化的リン酸化反応、細胞周期をコントロールする遺伝子、ユビキチンという細胞内の異常タンパクを検知するタンパクの遺伝子、など細胞の周期や代謝に関する遺伝子の発現が、G5メディウムでの胚に有意に発現していました。

また、治療した全体の胚の形態評価でみても、細胞代謝関連遺伝子が有意に発現したG5のほうがD2、D3の細胞数、および着床率は有意に高くなっていました。

それぞれのメディウムの組成の違いは、アミノ酸、ビタミン、ヒアルロナン、αリポ酸です。人間の体細胞と食生活の関係と同様に、胚においても培養液の環境は大きく影響するといえます。