すべての赤ちゃんのDNAを解析する時代は来るのか?

すべての赤ちゃんのDNAを解析する時代は来るのか?

~The Economistが投げかけた大きな問い~

「生まれたすべての赤ちゃんのDNAを調べるべきだろうか?」

少し前まではSFのように聞こえたこの問いが、いま現実の医療として議論され始めています。

2026年6月29日号のThe Economistに、”Should every baby’s DNA be sequenced?”という非常に興味深い記事が掲載されました。

出生直後の赤ちゃん全員のゲノム(全遺伝情報)を解析し、病気を早期に発見しようという試みです。

現在、イギリスではGeneration Studyという国家プロジェクトが進行しています。

目標は10万人の新生児。

生まれた直後にゲノム解析を行い、小児期に発症する約200種類の遺伝性疾患を調べる計画です。

同様の試みはアメリカ、オーストラリア、ヨーロッパでも始まっており、新生児医療は今、大きな転換点を迎えています。

記事の冒頭では、生後間もなく網膜芽細胞腫が見つかった男児が紹介されています。

ゲノム解析によって病気が早期に診断され、速やかに治療を開始できたことで、視力を温存できる可能性が高くなりました。

このような症例を見ると、「すべての赤ちゃんにゲノム解析を行えば、多くの命や健康を守れるのではないか」と考えるのも自然でしょう。

実際、遺伝医療に携わる者としても、この可能性には大きな期待を感じます。

しかし、この記事が興味深いのは、「だから全員にゲノム解析をしましょう」という結論ではないことです。

むしろ、「本当にそれでよいのだろうか」と何度も立ち止まって考えさせてくれます。

例えば、

遺伝子に異常が見つかったとしても、本当に病気になるとは限らない。

将来発症するかもしれない病気を、生まれたばかりの赤ちゃんや家族に伝えることは、本当に幸せにつながるのだろうか。

子ども自身が同意できない段階で、一生変わらないゲノム情報を保存してよいのだろうか。

記事では、こうした医学だけでは答えの出ない問題が数多く紹介されています。

私自身は、生殖医療や遺伝医療に携わる中で、PGTやNIPT、保因者スクリーニングなど、遺伝情報を扱う場面が年々増えていることを実感しています。

だからこそ、このThe Economistの記事は決して海外だけの話ではなく、日本の医療にも近い将来関係してくるテーマだと感じました。

実際、日本でも新生児医療は大きく変わりつつあります。

……と、ここまで書いて気付きました。

実は、日本でも新生児を対象とした検査は年々進歩しており、現在日本で以前から行われている「新生児マススクリーニング」に対して「拡大新生児マススクリーニング」として対象を広げて検査が行われています。

次回は、日本の新生児マススクリーニングがどのように発展してきたのか、そして海外で始まっているゲノム解析とは何が違うのかを整理しながらご紹介したいと思います。


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