胚の着床をサポートするマイクロRNA

胚培養士の奥平裕一です。

今回は、高品質な胚はどのように子宮内膜に働きかけ、自身の着床を促進しているかを調べた論文をご紹介します。臨床の話題とは異なり、聞き慣れない単語も出てきますが、ぜひお付き合いください。

High-quality human preimplantation embryos stimulate endometrial stromal cell migration via secretion of microRNA hsa-miR-320a

Human Reproduction 2020年8月号から

背景

着床の成功には、胚と子宮内膜の適切に同調した発育が必要です。過去に著者らは、高品質のヒト着床前胚が、何らかの因子を介して子宮内膜間質細胞の移動に影響を与えることを明らかにしています。また、着床前胚は、発育および着床の複数の過程でマイクロRNA(miRNA)を分泌することが知られています。しかし、胚由来のmiRNAと着床時の生物学的作用機序について明らかになっていませんでした。

結果

Day4胚の胚培養液上清中において、53種類のmiRNAが胚由来のmiRNAとして特定されました。この内、has-miR-320a というmiRNAが、高品質の胚(フラグメンテーションの割合が20%以下)でよく発現しており、低品質の胚(フラグメンテーションの割合が20%より多い)では発現していませんでした。そして、has-miR-320aのmimicとinhibitorを用いた体外実験から、has-miR-320aは脱落膜化した子宮内膜間質細胞の移動を促進することが明らかになりました。また、has-miR-320aは細胞接着や細胞骨格の調節に関わる遺伝子の発現に影響を及ぼすことが示されました。

本研究から、miRNA has-miR-320aは、高品質の着床前胚に特異的であることが実証されました。has-miR-320aの発現解析は、胚移植に際して、着床する可能性の高い胚を選択できる予測値となるかも知れません。また、培養液にhas-miR-320aを人工的に加えることで、形態学的胚発生の改善や着床を促進できれば、培養技術としてとても有益となります。しかし、今回は体外実験での結果であり、has-miR-320aが体内でも同様の働きをしているかは、将来調べる必要があります。今後のさらなる研究が期待されます。

用語の説明

マイクロRNA(miRNA):20~25塩基の小さなノンコーディングRNA(タンパク質へ翻訳されない)であり、ヒトゲノムでは1000以上のmiRNAが存在しています。miRNAは標的のメッセンジャーRNAに結合し、その遺伝子発現を調節しています。細胞の分化や発生など様々な生命現象で重要な役割を担っており、多数の疾患やがんの発症と進行にも関係しています。

miRNA mimic:miRNAを模倣した2本鎖RNAであり、miRNAの機能活性を高めます。

miRNA inhibitor:miRNA分子に特異的に結合する1本鎖RNAであり、miRNAの機能活性を抑えます。

脱落膜化:子宮内膜間質細胞が、胚の着床に伴い形態的および機能的に分化する過程のことです。着床や絨毛細胞の浸潤、胎盤形成において重要な役割を果たしています。脱落膜化した子宮内膜間質細胞の方向性のある移動は着床の成功に重要であり、その移動の変化は生殖障害に関与していることが考えられています。