抗甲状腺抗体と流産

抗甲状腺抗体と流産

医師の田口早桐です。

妊娠10週以前の流産の原因の7割が胎児(受精卵)の染色体異常によるものと言われています。なので、流産をした場合の対応として、「大丈夫、次はうまくいくから」「自然淘汰だと思って」などと軽く流されてしまうことも多いと思います。
不妊治療をしているからというわけでなくても、一度流産すると、ショックも大きくて、トラウマになってしまうことも多いです。念のために流産の原因を調べてから次の妊娠をしたいという方も少なくありません。

母体側の原因としては、甲状腺ホルモンの異常が流産の原因の一つと言われています。
アメリカ生殖医学会の2012年のガイドラインでは、流産したら、両親の染色体検査、子宮形態評価、抗リン脂質抗体症候群、プロラクチン、耐糖能、そして甲状腺の検査をすることを勧めています。
甲状腺機能低下で、流産だけでなく、新生児の低体重、早産、胎盤早期剥離などの妊娠に伴うリスクが高まることも言われています。甲状腺機能異常があれば、投薬でコントロールします。

体外受精の場合は、流産の主原因である受精卵の染色体について、移植前に調べることが可能なので(着床前診断)、それでかなりの程度流産を防ぐことはできます。反復流産の方に着床前診断が勧められるのはそれが理由です。
しかし、染色体正常と分かった胚を移植しても、流産することもあります。甲状腺機能異常に関しては治療でコントロールしているはずだけれども、中に甲状腺に対する抗体を持っている人たちがいるので、その抗体が関与しているのではないか、ということを、調べた論文があります。

Human Reproduction8月号に掲載された、Maternal antithyroid antibodies and euploid miscarriage in women with recurrent early pregnancy lossです。染色体正常胎児の流産歴があり、甲状腺機能異常のある女性のうち、17%の方の女性が抗甲状腺抗体を持っていたとのことで、抗体のある人とない人で、その後、染色体正常の流産を繰り返すかどうかを比較しています。抗体陽性の人では初期流産が70%、化学妊娠が30%、陰性の人では55%と43%、結論としては、抗甲状腺抗体自体では流産の原因になるとは言えない、という結果になりました。

当院でも不育・着床不全の検査の一つとして、甲状腺ホルモンの検査をしています。甲状腺ホルモン自体が正常範囲でも、甲状腺をコントロールするホルモンであるTSHの数値が高い人は甲状腺機能異常と位置付けて治療することが推奨されています。
当院では、内科の医師が「不妊内科」を担当して、治療にあたっており、抗甲状腺抗体である、抗TPO抗体と抗サイログロブリン抗体もその際採血して測っています。

流産は心身ともにこたえます。
防ぐために少しでもできることがあるなら、しておきたいですね。
今回の論文では抗体自体が悪さをするわけではなさそうということですが、さらなる検討が必要だと思います。