日本受精着床学会に参加しました…その4

日本受精着床学会に参加しました…その4

胚培養士の川北です。

第35回日本受精着床学会に参加してきました。
私たち胚培養士は顕微授精や卵子凍結するための前処理として、採卵された卵子の周りの細胞をはがす裸化という作業を行います。裸化処理した卵を顕微鏡で観察し、極体という小さな細胞を確認し成熟の有無を判断します。その際に卵細胞質に様々な特徴を持った卵子が得られる場合があります。例えば黒褐色の微小構造であるrefractilebodies 、滑面小胞体の集合体であsERC (smooth endoplasmicreticulum cluster )、空胞などです。

その中でも今回発表が多かった sERC についてお話します。

sERCは年齢に関わらず、採卵で採れた卵子のうち2.4%程度の割合で出現します。sERCを持つ卵子とそうでない卵子で受精率、胚盤胞発生率、妊娠率、出産率に差が出るのかどうか検討されていました。
複数の施設で同様の検討が行われていましたが、どの施設でもsERCを持つ卵子で受精率が若干低いものの、その他の項目に大きな差はありませんでした。sERCを形成している滑面小胞体は受精に関与するカルシウムイオンの貯蔵を行う細胞小器官であるため、受精率に差が見られた可能性があります。

一方で顕微授精後、sERCが消失することも分かっており、受精率以外で差が見られていないのはこの事が関係しているかもしれません。

先日のブログ記事「第58回日本卵子学会学術集会に参加しました」にもsERCについての話題があった通り、このような発表が増えてきている印象があります。
大きなカテゴリーの研究だけでなくARTの発展と共に、これまではあまり目を向けられていなかった小さなことにも注目するようになってきているように感じました。

患者様に当院を選択してよかったと思っていただけるように、このような小さなトピックにも目を向けていこうと思います。