人種の違いが体外受精の結果にどのように作用するか

人種の違いが体外受精の結果にどのように作用するか

医師の田口早桐です。

Racial disparities in in vitro fertilization outcomes
Fertility and Sterility Vol.104,No.2, August 2015より

人種の違いが体外受精の結果にどのように作用するか、という論文です。白人、黒人、アジア人、ヒスパニック、という4つのカテゴリーに分けて調べています。
シカゴの病院のデータです。

初回の体外受精で新鮮胚移植の結果を4種類の人種間で調べています。

結果として、白人に比べて、黒人とアジア人は、妊娠率が低く生産率(赤ちゃんが生まれる割合)も低いという結果になりました。

数字は、白人の妊娠率36.2%に対し、黒人24.4%、アジア人31.4%、ヒスパニック34.0%。尚、流産率は白人14.6%に対し、黒人28.9%、アジア人20.6%、ヒスパニック15.3%でした。

生産率、つまり赤ちゃんが生まれてくる率に関して、白人を1とすると、黒人は0.5、つまり半分、アジア人は0.64、ヒスパニック0.8でした。

とても違いが大きいので、びっくりされたことと思います。
ただし、この論文は著者たちも認めている通り、統計データの取り方として不完全な部分があります。
不妊期間などが含まれていないし、サンプル数も、白人3,003人に対し、黒人213人、アジア人541人、ヒスパニック288人と偏っています。

また、日本人はアジア人のデータを参考にしたいところですが、アジア人と一言でいっても様々で、シカゴであるということより、ほとんどが中国からの人ではないかと思います。遺伝上日本人とはかなり差があるはずです。黒人にも同じことが言えるでしょうね。

また背景因子を見てみると、黒人とヒスパニックではBMIの高い傾向があり、それが、妊娠に不利になる可能性はあります。また、黒人では子宮筋腫の割合が高く(30.4%ちなみに白人は10.7%)それも妊娠率を下げ流産率を上げる因子となっている可能性が大きいです。

論文としてはいろいろ疑問がありますが、アジア人は排卵誘発期間が長くなる傾向があり、その際のエストロゲン値の最高値が高くなる傾向があり、そのために子宮の受容性が損なわれる可能性がある、との推察がありました。それが我々にも当てはまるとすると、新鮮周期で移植せず、胚凍結を行ってから違う周期で移植する、という、最も多く採用されているやり方がよい、ということになります。