妊孕性温存

妊孕性温存

理事長の中村嘉孝です。

先日、乳がん治療を専門にしている施設からの依頼で、妊孕性温存について講演をしてきました。

化学療法を行うと卵巣の機能がなくなってしまう場合があるので、若い女性の悪性腫瘍の治療では、どうやって妊娠できる能力(妊孕性)を残すのかが課題になります。

卵子の凍結保存もその一つの方法で、体外受精と同じ方法で採卵するのですが、乳がんの場合には、エストロゲン、プロゲステロンといったホルモンに感受性があるため、卵巣の刺激法を工夫しなくてはなりません。そういったプロトコールの話や凍結・融解法の実際について、そして、薬剤による卵巣機能の保護、卵巣組織の凍結保存などについてお話をしてきました。

がんの治療が進歩してきており、命が助かるだけではなく、妊孕性の温存を考える時代になってきています。講演では熱心な質問を次々といただき、関心の高さがひしひしと伝わってきました。そして、多くの方が懸念していたのは、卵子保存は胚の凍結とちがって染色体が損傷されるということ。さすがによく勉強しておられます。ただ、それはプログラム・フリーザーを使った緩慢凍結法が主流だった頃の文献がいまだに本にも引用されているためで、現在のガラス化法では卵子の保存も胚の保存と同じ成績で、全く問題がなくなっています。

講演後に乳がん専門医の先生方と中華料理のお店で食事をご一緒したのですが、前菜にピータンが出ました。ピータンはアヒルの卵を灰の中に保存しておいて作るそうですが、この製法は明の時代に見つかったとのこと。ピータンは今も同じ方法ですが、卵子の保存法は大きく進歩しています。

当院もがん治療前の卵子、卵巣組織保存の学会登録し、協力施設となっています。