薄い子宮内膜への対策…その4

薄い子宮内膜への対策…その4

医局カンファレンスです。

子宮内膜の状態がどのように胚着床に影響するか考えるうえで、提供卵子を用いた胚移植周期のデータは、良いモデルです。
若い提供者から得られた卵を使うため、染色体正常な良好胚の割合が高く、複雑な胚側の因子を減らすことができます。

提供卵子による胚移植周期に限定して子宮内膜の厚さと妊娠、生産率を検討した報告がありました。(Dain et al., Fertil Steril, in press)

イスラエルの2か所の診療所で、2005-2010年に健康な23-30 歳の女性からのドナー・エッグを用いた胚の移植を受けた25-60歳の737名の患者が対象です。

最良の形態の胚を新鮮周期で採卵後2-3日目の初期胚を複数個移植(*1)、ホルモン補充周期で内膜厚を調整して行われています。
残りのものは凍結されていますが、約85%が新鮮胚移植、6%が凍結胚移植、残りが新鮮胚・凍結融解胚の混合移植で、凍結融解胚移植の割合が少なくなっています (*2)。

著者らは内膜の厚さが6mm以上と未満、8.2mm以上と未満(この研究の中央値)の場合で、まず比べてみましたが、いずれも妊娠率・生産率に差はありませんでした。
次に、内膜厚9.1mm―10mmと、9mm以下、10mm以上に分けて比べると、9.1mm―10mmのグループで妊娠率(42.4%)・生産率(37.4%)が他群よりも高いことが分かりました。
9mm以下(妊娠率29.0%、生産率21.2%)と10mm以上(妊娠率24.6%、生産率19.4%)では成績は同等でした。
また、内膜のエコーパターンを3つのタイプ(三層型、均一型、中間型)に分類して比較したときも、妊娠率に差はありませんでした。

子宮内膜厚9mm台が移植にはベストではないかというのがこの論文の結論です。
人種の違い、新鮮、初期胚移植主体であることなど、日本の現状と異なるため、この結果だけで判断するのは危険ですが、興味深いことに6mm未満でも、妊娠率(29.6%)・生産率(16.7%)は悪くありません。
複数胚移植は薄い子宮内膜に対する選択肢のひとつとなりうるかもしれません。

(*1)
胚移植や凍結はおもに2-3日目で(平均 ± 標準偏差 2.67 ± 0.58 日)行われ、1回あたりの移植個数は2-3個(平均 ± 標準偏差 2.55 ± 0.65個)のようです。

(*2)
日本で現在主流となったガラス化法ではなく、胚がダメージを受けやすく、妊娠成績も劣る緩慢凍結法で行われています。
その結果、融解胚移植のキャンセル率が高くなったと推測されます。