カブトムシ

カブトムシ

医師の田口早桐です。

今年の夏から、我が家で、カブトムシが飼われています。と、他人事のようにいうのは、実は私は、超のつく「虫嫌い」。

不妊治療で生まれた8歳になる息子が、小学校の友達から譲り受けた幼虫が成虫になったというわけです。「返して来なさい。」と言ったものの、強硬な抵抗姿勢を見せられ、一応、「生き物を大切にする」「自分で責任を持って何かをする」ということを学ぶ良い機会なのかと思い、黙認しています。
玄関に置いている箱で飼っていますが、その脇を通るたびに緊張しているのが、我ながら、情けない。

親が何も言わないのを良いことに、今度は、成虫のオスとメスを連れてきました。
わざわざ別の箱に入れていて、それを、「今日は一緒にする。交尾をする。」と宣言。
数分後、「交尾した。メスが卵を産むから。」と、わくわくしている様子。
そして、先日、メスは、産卵し、幼虫がたくさんできた、とのこと。

私は、その報告を受けながら(気持ち悪くなるので、見られない)、「なんて簡単に生殖できてしまうのだろうか」という思いで一杯になります。
私は仕事として同じ(?)ことをしているのですが、採卵、受精、着床、と何段階も過程を経てやっと、成果を得ることができる。
タイミング法では、きちんと時期を合わせるのに非常に労力と時間を割きます。
もちろん、体外受精にしたって、さっさと一回目で結果の出る方も多いのですが、なかなか着床せずに患者さんともども苦労する症例があったり、また、自分も体外受精を経なければ妊娠できなかったということもあり、職業病なのか自身の経験に基づくものなのか、「そうそう簡単にはいかない。」と思ってしまっているのです。だから、カブトムシの生殖を目の当たりにして、唖然としてしまうのかもしれません。

しかしよく考えてみると、マウスを使って実験していたときも、ほぼ100%の妊娠率でした。
体外受精をしてみると、哺乳類の中でも、体の大きさが大きくなるにつれ、胚盤胞形成率(受精卵の中で着床前の状態まで順調に発育する割合)は、小さくなります。
つまり、受精はしても、なかなか妊娠しない、ということになる。

まあそれでも人間は、カブトムシのように、産卵したら死ぬ、ということもなく、自分の思うときに思うように生殖を行う自由があるのですから、文句は言えません。

「交尾したからって、何で産卵すると言えるの?」と聞き、「図鑑に書いてある。」と言われ、それでもしつこく「でもなんで100%と言えるの?」と食い下がる私を、「変な母親」と息子は思っているのでしょうが…、仕方ないですよね。