学会報告-ESHRE2012 その2

学会報告-ESHRE2012 その2

理事長の中村嘉孝です。

議論が噛み合わず、壇上で困る二人

さて、今回の学会の大きな議論の一つに、子宮中隔を手術すべきかどうか、というものがありました。

子宮は、胎児のときにミューラー管という左右に分かれた管がくっついて一つになるのですが、それがうまくいかずに子宮が二つのままの双角子宮になったりします。
そして、途中までくっついたけれども、間に隔壁が残ってしまうのが子宮中隔です。

この中隔をレゼクトスコープなどで切除すべきかどうか、ということで、もちろん、「手術したら妊娠率が上がった」という報告は多数あるのですが、無作為化対照試験(RCT)がおこなわれておらず、科学的に効果が立証できていないのです。

手術の学会報告というのは、よかったことしか言いませんから、後で検証したら本当は効果がなかった、という事例は枚挙に暇がありません。
しかし、一方で、卵管留膿腫の切除のように必要なことが分かりきっていると思うのに、RCTが行われるまで結論がでなかったという場合もあります。

今回はディベートのセッションも、設けられたのですが、残念ながら議論が噛み合っていませんでした。
というのは、これは科学哲学の問題であって科学の問題ではないからです。

たしかに、資源の効率的配分には無作為化対照試験(RCT)は有効だと思います。
しかし、個々の患者に最適な治療となると、そうはいきません。
集団全体でのRCTで一見無効と思えても、例えば身長何センチ以上など、ある特性をもったグループには有効かもしれない。
そうやって条件を次々と加えてグループを細分化していくと、最後は個人に行き着きます。
そして結局は、「黒いカラスしか見たことがないからといって、白いカラスがいないとは言えない」という科学哲学の基本的な問題に行き当たります。

もちろん、かといって私も、統計を何もかも否定しているわけではありません。
当院では、様々な臨床試験の統計データを参考にしながらも、個々の患者様の状態をできるだけ考慮して、お一人お一人にとって何が最適か考えていくことを心がけています。