着床に必要な子宮内膜の炎症とは…その3

着床に必要な子宮内膜の炎症とは…その3

医局カンファレンスです。

白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor, LIF)という分泌型蛋白があります。LIFはサイトカインと呼ばれる炎症性蛋白のグループの一種です。

マウスではLIFは胚着床直前期の子宮に現れます。
LIFを作れないように遺伝子操作したマウスでは、着床不全となることがよく知られています。
(Stewart CL et al., Nature 1992;359:76-9.)

このマウスの胚を他の野生型マウスに移植すると、問題なく子宮内膜に着床したことから、LIF欠損状態では、胚ではなく子宮内膜側に問題(脱落膜化不全)があって着床がうまくいかないことが分かりました。

この研究が礎となって、ヒトでもLIFと着床との関係が注目され、これまでに広く研究されてきました。
その結果、着床不全の患者さんの子宮内膜でLIFが欠乏していることが明らかになってきました。
LIFの着床不全への治療効果が期待され、リコンビナント(組み換え)製剤が作られました。
予備試験でリコンビナントLIF製剤を反復着床不全患者に投与したところ、よい妊娠成績が得られました。

そこでLIFの 注射投与が2回以上反復着床不全の患者さんに対して有効かどうか調べる臨床試験結果が行われ、3年前に英国から発表されました。(Brinsden PR, et al., Fertil Steril. 2009;91(4 Suppl):1445-7).
患者さんを無作為に2群に振り分け(ランダム化)1群にリコンビナント(組み換え)LIF製剤を1日2回、合計7日間、皮下注射別の1群にプラシーボ(偽薬)を同じように皮下注射されました。

LIFが注射されたのかプラシーボが注射されたのか、患者と医師のどちらにも分からない状態で第三者が比較したところ(二重盲検プラシーボ対照試験)、臨床妊娠率はLIF注射群が17.6%、プラシーボ群が34.0%で、なんとLIF注射群で約半分という圧倒的に悪い結果でした。

当初期待されたLIF全身投与ですが、着床不全に対して意味がないばかりか、悪影響を与えかねないことが明らかになりました。

この研究の解釈は難しいのですが、ヒトの体内で作られる(endogenous) LIFと遺伝子技術と大腸菌や細胞株を用いて合成されるリコンビナント(recombinant)LIFとでは構造や分子量が違うために起きた可能性があります。
最近でも、尿から精製した製剤とリコンビナント製剤で、ある蛋白質の薬としての特性や臨床結果が異なったという実例が報告されています。

この臨床研究の報告の後にも、着床不全にかかわるさまざまな疾病で子宮内膜のLIFが欠乏していることが、次々と発表されていますが、LIF自体が薬として着床不全治療に使えるというレポートは出ていません。