PCBと着床不全

PCBと着床不全

医局カンファレンスです。

PCB(ポリ塩化ビフェニル)はその絶縁性や不燃性などの特性のため、トランスやコンデンサーなど産業分野で広く利用された化合物ですが、その有毒性が問題視され、1970年代に日本を含む多くの国で生産・輸入・使用が禁止されました。

米国での長期の追跡の結果、着床不全患者では、血液中のPCB濃度が高いレベルにあることが明らかになりました
(Environmental Health Perspectives 2011;119:1010-1016)ので取り上げます。

私は個人的にはPCBは過去の物と思い込んでしまっていましたが、今回調べてみると、なんと30年以上経った現在でも、私たちの身の回りに少なからず存在していることを知り驚きました。

PCBの中には分解されにくいものがあり、廃棄物の取り扱いに苦慮しているとのこと。
現在どの程度の量が国内に残存するのか、正確に把握するのは困難なのだそうです。

またそのような性質のため、一度人体に入ってしまうと長い年月にわたっておもに脂肪組織に蓄積するそうです。

今回の報告によると、765人の採卵前の血液中のPCB-153同族体と総PCBの濃度を測定したところ、濃度が高い患者では低い患者に比べて、体外受精後の着床不成功のリスクが高かった(オッズ比1.7倍)との結果でした。ケミカル妊娠や流産との間に相関関係はなかったようです。

PCBに暴露された女性の妊娠能力の低下が以前に報告されましたが、今回の調査から胚着床レベルで影響している可能性が考えられます。

内分泌攪乱物質いわゆる環境ホルモンも最近めっきり報道が減りましたが、ヒトも含めていろいろな生物の生殖能力への影響が懸念されています。
今後、これらの環境因子にも注意を払う必要があるようです。