物言えば 唇寒し 秋の風

物言えば 唇寒し 秋の風

理事長の中村嘉孝です。

昨日のブログで触れた『デフレの正体-』がよく売れています。

学者やエコノミストの空理空論を批判し、「都市地方格差」とか、「エコ技術で生き残れ」といった、一般に広く信じられている経済の見方をことごとく覆す内容で、そこは面白かったのですが、その後が私は納得できませんでした。

現在の経済停滞の原因は、

  1. 働きざかりの人口が減少していること
  2. 高齢者に金が入るばかりで若年の所得が低下してこと

にあるという議論は了解です。
しかし、それに対する処方箋については首をかしげます。

「長期的視点にたつ企業は労働者の給与水準を上げようとするはず」とか「高付加価値の商品を出すべき」とか「女性を活用すべし」とか書いておられるのですが、それこそ、空理空論でしょう。
まあ、医者の私が専門外のことについて何を言っても仕方ないのですが、次の点については、明らかにおかしいと言えます。

筆者は、「戦後の住宅供給と同じ考え方で医療を充実させよ」と主張します。
しかし、本当の問題は、経済学者が一致して言うように、技術進歩にあります。
医療が供給不足なのではなく、皆が払える金額よりも技術的にできることが多すぎる、それが問題なのです。
住宅なら「本当は3LDKが欲しいけど、当面は2LDKでいいか」となりますが、医療については、そういうことにはなりません。だから、本当に議論すべきなのは「命の値段と平等」についてなのですが、そんな議論をしても、世の中から嫌われるだけです。

労働問題にしても、医療福祉問題にしても、学者の多くは本質的問題を理解しているのだろうと思います。
しかし、そんなことを口にすれば、言葉の端々を捉えられて批判されるのがオチ。
まさに「物言えば唇寒し」で、言わないのでしょう。

多分、このあたりについても本当は筆者もわかっているのだろうな、とは思います。
分析は鋭いのに、提言は大甘。
残念ながら筆者は、本当に社会から嫌われることを言えない性格なのでしょう。

筆者は、学者やエコノミストを「お受験秀才」と非難しますが、そういうメンタリティこそ「お受験秀才」の典型です。秀才とはいかないまでも「お受験」組みだった私には、そう思えます。