サービス…その1

サービス…その1

理事長の中村嘉孝です。

人から聞いた、某ホテルのフィットネスクラブでの出来事。

そのホテルの幹部職員がフィットネスの施設を利用しているのをある会員が見咎め、「従業員は使うな」と言った。すると、「あなたに言われる筋合いはない」と言い返された。会員は腹を立てて、幹部職員を殴り、刑事事件になっている、という話。

いうまでもなく殴るのは論外ですが、この話には少し考えさせられました。
単なる暴力的クレームではなく、サービスの本質にかかわる事件のように思われるのです。

ホテルの玄関では、自分であければよいドアを、わざわざドアマンが開けます。
食事をしている客が手招きすると、控えているボーイが飛んできて水を注ぎます。
語弊を恐れずにいえば、そのようにして階級差別的感情を満たすのが、ホテルのサービスの本質ではないでしょうか。

このことは、海外の低所得国にあるリゾートホテルを考えると、よくわかると思います。
旅行社のパンフレットには、「コロニアル風の」と書かれていますが、英語で書くからなんとなく良い雰囲気に思えますが、「植民地風の」ということです。

もちろん現在の日本には、そのような階級差はありません。最近は「格差社会」などといいますが、それでも、日本はきわめて平等な国で、ホテルのボーイが、ホテルの客になることに何の不思議もありません。

しかし、それがかりそめの空間であることを十分に知りつつも、階級的感情を楽しむために、ホテルが利用されているのだと思います。ホテルというものが、なにかしら背徳的匂いを秘めているのも、そのためだと私は思うのです。

ところで、「医療もサービス業」といわれるようになって久しく、病院で、ディズニーランドやホテルを参考にした接遇研修が行われることも珍しくありません。
そして、そのことをホームページで得意げに謳う病院もあります。

しかし一方、増加するクレームによって医療現場は疲弊しています。

このような事態にいたった理由は、「サービス」というものをあまりに表層的な次元で捉え、その背後にある心理を見ようとしなかったからでしょう。そもそも、医療はサービス業になりえない、と私は思います。

にもかかわらず、私どもは開院以来、サービスをモットーにしてきました。
「医療はサービス業になりえない」と他の病院を批判しながら、なぜ、自らはサービスの研修をするのでしょうか。なぜ、わざわざ「ホテル」グレードのサービスを求めているのでしょうか。