ミズイロと学ぶ!– 第13話 胚は、どう発育するの?(その2)

ミズイロと学ぶ!– 第13話 胚は、どう発育するの?(その2)

胚の発育を見てみましょう

● 受精直後:前核と極体が確認できる時期
1個の卵子と1個の精子が受精すると、細胞質の中に卵子由来の核(専門的には前核と呼びます)と精子由来の核の2つが現れます。これを前核といいます。
同時に、細胞質の外には第二極体が放出され、細胞の外側に極体が2つ見える状態になります。
前核はやがて1つに融合し、その後、胚は細胞分裂を始めます。
2細胞、4細胞、8細胞へと、規則的に細胞数を増やしていきます。

● 分割期胚(初期胚とも呼ばれます)
細胞分裂が進んでも、胚全体の大きさはほとんど変わりません。
そのため、細胞の数が増えるにつれて、1つ1つの細胞は小さくなっていきます。
受精後、順調であれば胚は2細胞、4細胞、8細胞へと分裂していきます。
この時期は分割期胚と呼ばれ、細胞分裂が順調に進んでいるかどうかが重要な評価ポイントになります。

▶︎ この時期、胚培養士は
・1つ1つの細胞の大きさが均等か
・発育スピード(分割スピード)は適切か
・フラグメント(細胞分裂の際に生じる細胞の断片)の量はどうか

といった点を観察し、胚が順調に発育しているかを判断します。

● コンパクションと細胞の役割分担
8細胞期までの胚は万能細胞で、どの細胞も将来、赤ちゃんにも胎盤にもなれる状態にあります。
しかし、8~16細胞期頃に細胞同士が強くくっつき合うコンパクションが起こります。コンパクションが起きた胚は桑実胚と呼ばれます。これを境に、細胞には次第に役割の違いが生まれ、分化が始まります。

▶︎ この時期、胚培養士は
・細胞同士のくっつき方
・胚全体のまとまり
・コンパクションが自然な流れで起こっているか

といった点にも注目し、胚発育が順調かどうかを判断します。

● 胚盤胞へ:着床に向かう準備段階
桑実胚はさらに発育し、やがて胚の中に胚盤胞腔(胞胚腔)が形成され、胚盤胞になります。

▶︎ この時期、胚培養士は
・将来赤ちゃんになる細胞:ICM(内部細胞塊)
・将来胎盤になる細胞:TE(栄養外胚葉)

の2つに分かれてきた状態を観察します。
この段階では、ICMとTEの

・細胞の数
・密度

そして、胞胚腔の大きさから、発育スピードを観察し、評価します。


胞胚腔がしっかり広がっているかどうかも、胚の健全性や着床の可能性を判断するうえで大切なポイントになります。
こうした一つひとつの観察と評価の積み重ねによってより良い移植胚を選別し、妊娠へとつながっていきます。

胚の発育を支える「環境」の違い


自然妊娠の場合、受精後の胚は卵管の中で発育します。
卵管内を流れる卵管液から栄養を受け取りながら、胚は分裂を繰り返し、子宮へと移動していきます。
一方、体外受精では、胚は体の外で発育します。
培養室に設置されたインキュベーターの中で、培養液から栄養をもらいながら発育していきます。
インキュベーターは卵管の役割を、培養液は卵管液の役割を担っており、体内環境にできるだけ近づける工夫がされています。

胚培養士が整える、培養環境の工夫

体外受精では、繊細な胚が順調に発育するように環境を十分に整えることが重要です。
胚培養士は、温度・湿度・酸素濃度・二酸化炭素濃度などを厳密に管理し、胚が順調に発育できる状態を保ちます。
特に酸素濃度は重要で、体内の卵管や子宮に近い低酸素環境を再現することで、胚の発育が安定しやすくなることが知られています。
こうした細やかな環境調整も、胚培養士の大切な役割のひとつです。

タイムラプスインキュベーターで見る「発育の過程」

タイムラプスインキュベーターを使用した胚培養では、インキュベーター内に内蔵されたカメラが一定間隔で胚を撮影し、その画像を連続再生することで、胚の発育過程を動画のように観察できます(パラパラ漫画みたいな感じです)。
最大の利点は、胚をインキュベーターの外に取り出す必要がないことです。
通常のインキュベーターの場合、顕微鏡で胚の発育状態を観察・確認するために一時的にインキュベーターの外へ出す必要があります。一方で、タイムラプス培養ではその操作が不要となり、胚への負担を軽減することができます。
また、

・前核の形成
・分裂のスピードやタイミング
・異常分裂の有無

などを、後から追跡し確認できる点も大きな特徴です。

胚培養士は、静止画だけでなく「発育の過程そのもの」を評価材料として活用しています。

引用元:漫画「胚培養士ミズイロ」おかざき真里 小学館 週刊スピリッツ連載 単行本第3巻 第13話より

発育の様子を「見える形」で共有する取り組み

オーク会では、オークオンラインを通じて、培養室でお預かりしている胚の発育の様子をご覧いただけるようになっています。
胚培養士が日々観察している発育の過程を、将来のパパとママにも共有することで、
「この胚がどのように育ってきたのか」
を、少しでも身近に感じていただけたらと考えています。

胚発育の様子:ご案内(https://www.oakclinic-group.com/info/info173/
※タイムラプスインキュベーターを申し込まれていない患者さまでも、胚発育の一部をご覧いただくことができます。

胚の発育は、命の始まりのとても大切な過程です。胚が細胞分裂を繰り返し、やがて赤ちゃんになる準備をしていくことがわかります。
自然妊娠でも体外受精でも、胚発育の様子には変わりがありません。体外受精では、タイムラプスインキュベーターでその様子を確認することもでき、パパもママも自分たちの胚が育っていく過程を目にすることができ、安心へつながっていくことと思います。
胚の発育を知ることで、命の不思議や不妊治療の意味を少し身近に感じてもらえたら嬉しいです。

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第14話へ続く

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