
第6話のおさらいから
前回は、がん治療を受ける前に行う「医学的卵子凍結」についてお話ししました。
今回は、採卵された卵子がどのような方法で凍結され、保管されるのか、胚培養士の視点からわかりやすくお伝えします。
凍結された卵子は、未来へのタイムカプセル。ひとつひとつを確かな技術で守ります。
卵子凍結の流れ
卵子は、採卵された後すぐに胚培養士のもとへ運ばれます。
胚培養士は顕微鏡を使って、一つひとつの卵子を探しながら、状態を確認します。
これを検卵といいます。
採卵されたばかりの卵子は、顆粒膜細胞(卵丘細胞)におおわれています(写真左下)。
凍結は、成熟した卵子(MII期)が対象ですので、卵子が成熟しているかどうかを確認するために顆粒膜細胞を除去します。
ヒアルロニダーゼという酵素を含む培養液の中で、ピペットで慎重に吸引・放出を繰り返し、顆粒膜細胞を丁寧に取り除きます。これを裸化といいます(写真右下)。

裸化した卵子は、大きさ、第一極体の有無、透明帯の状態、色や形などから判断します。
左が採卵されたばかりの卵子。顆粒膜細胞におおわれています。右が顆粒膜細胞を取り除いた裸化後の卵子。12時の方向に第一極体が見え、成熟した卵子(MII期)だとわかります。
*検卵・裸化については、ミズイロと学ぶ!‒ 第5話 採卵された卵子が精子と出会うまで(その1)〜卵子が体の外へ出た、その瞬間から〜でもご紹介していますので、ぜひ、一度読んでみてください。
確認が終わると、いよいよ凍結の準備。
卵子の凍結には「ガラス化法(vitrification)」と呼ばれる方法が用いられます。
これは、卵子を急速に冷却させることで、細胞の中に氷の結晶(氷晶といいます)ができるのを防ぐ技術です。
卵子の細胞質には多くの水分があるため、単純に凍結したのでは細胞内に氷晶ができ、それによって細胞が壊れてしまいます。オーク会では、超急速ガラス化保存法を採用し、液体窒素で瞬時に冷却して氷晶の形成を防いでいます。具体的な手順は以下のように進めます。
1.卵子を守る
卵子を凍結保護物質(クライオプロテクタント)が含まれた平衡液に入れる。
この操作によって、卵子内の水が細胞外へ出て、逆に凍結保護物質が細胞内に流入します。


2.脱水・収縮
次に、より高濃度の凍結保護物質が含まれたガラス化液に入れる。
卵子内の水分がガラス化液に置き換わり、卵細胞質は収縮した状態となります。


3.凍結
卵子を凍結デバイス(卵子や胚を凍結する際に用いる小さな専用のプレート、例:クライオトップ、クライオテックなど)に乗せ、直ぐに液体窒素(-196℃)へ浸ける。

4.保管
凍結デバイスを「ケーン」という金属の器具に固定し、ケーンごと「キャニスター」に入れて液体窒素タンクに収納します。
また、事前に凍結デバイスの持ち手部分に管理No.・患者さまの名前・卵子/胚の情報を記載し、その上からバーコードが付いたシールを貼り、検体を管理しています。

液体窒素は、液量を毎日チェックし、必要があれば補充しています。
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第8話へ続く
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