第153回 近畿産科婦人科学会学術集会 参加レポート

第153回 近畿産科婦人科学会学術集会 参加レポート

―子宮内膜症治療から多様な生殖医療・倫理まで―

2025年10月12日に開催された「第153回 近畿産科婦人科学会学術集会」に参加しました。今回は、臨床現場の最新知見と、生殖医療の多様性・倫理的課題の両面から大変示唆に富む発表が多くありました。その中で特に印象に残った2つの演題を中心に報告します。

ランチョンセミナー(昼食を食べながら聞く講演)は、「転換期の子宮内膜症診療」というタイトルで、子宮内膜症の診断と治療についての演題でした。

超音波検査のみ子宮内膜症の診断とするべきではなく、内診による痛みや硬結を拾って、チョコレート嚢腫などはっきりした所見を呈さない深部子宮内膜症を診断すること、そして、深部子宮内膜症が疑われる場合には、レルミナを第一選択として開始するのがよいという提案がありました。

画像診断に頼りすぎず、症状・診察所見を重視する臨床判断の重要性や、効果が不十分な場合の他剤併用や手術を柔軟に検討することも重要とのことでしたが、「深部子宮内膜症にはまずレルミナから」との明確なメッセージが強調されました。

続いて報告されたのは、子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)患者における妊孕性温存の実践です。手術前に胚を凍結しておく「ECBS:Embryo Cryopreservation Before Surgery」という戦略が紹介されました。

28〜42歳の子宮内膜症患者(IVF実施例)の患者さんが、手術前に胚凍結を実施し、術後に移植した場合、しなかった群よりも、臨床妊娠率・継続妊娠率ともに有意に高かったという結果が紹介されました。手術による卵巣予備能低下を回避するための有効な手段といえます。

「治す医療」から「将来の妊娠を守る医療」への視点転換を促す内容でした。

「セクシャル・アンド・リプロダクティブ・ヘルス・アンド・ライツと産婦人科」という講演では、トランスジェンダーの方の生殖というテーマが取り上げられました。トランスジェンダーであっても、もとの生物学的性を生かした形での生殖を希望する方も多くいます。

性適合手術前にホルモン療法(エストロゲン、スピロノラクトンなど)を受けたMTF(男性→女性) 85例を解析。多くで精子形成は低下していたとのことで、「ホルモン治療前に精子凍結の選択肢を提示することの重要性」が強調されました。

反対にテストステロン投与を続けているFTM(女性→男性)に関しては、卵子の採取数等が減少するなどの影響はないようです。 性別移行のプロセスにおける“将来の生殖の自由”という観点は、今後の臨床倫理にも大きな示唆を与えますね。

それとともに、ART(生殖補助医療)を用いた多様なパートナーシップに関する議論も展開されました。トランスジェンダー男性/女性、同性カップルなど、様々な組み合わせで妊娠・出産の可能性を整理したうえで、日本では法的制約が依然として大きいものの、「自分の配偶子をもつ親になる」ための支援が求められていることが示されました。

さらに海外のメタ解析では、性的マイノリティカップルの子どもたちは心理的にも良好な発達を示すことが報告され、「多様な家族形態が子どもの幸福に直結しない」というエビデンスが紹介されました。ほっとしました。

最後に、着床前遺伝学的検査(PGT-M)に関する話題が取り上げられ、最新の承認状況や対象疾患リストが提示されるとともに、 「“重篤”とは誰がどのように判断するのか?」という根源的な倫理的問いが投げかけられました。

たった一日の学会でしたが、非常に示唆に富む内容でした!


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