PGS(着床前スクリーニング)

PGS(着床前スクリーニング)

「科学技術の進歩で得られた技術を日本の患者のために使ってはならない合理性はどこにあるのだろうか」

胚培養士の天野です。
第61回日本生殖医学会学術講演会に行ってきました。

冒頭の文章は、PGS(着床前スクリーニング)に関するシンポジウムの抄録の一文ですが、共感を覚えたので引用させて頂きました。PGSは、海外では盛んに行われていますが、日本での実施は日本産科婦人科学会の会告により禁止されています。
しかし先日、浜松市でPGSを実施した医師が生殖医療専門医資格を取り消されたというニュースが報道されていたことからも分かりますが、国内でも需要は高まっていると思われます。
このシンポジウムは臨床医がPGSの必要性を訴えるという内容でした。

PGSは顕微授精を行って得られた胚盤胞の細胞を用いて染色体異常の有無を調べる検査です。
胚の染色体異常の有無が予め分かっていれば、妊娠に結びつかない胚を移植胚から除外できるので、流産率が低下し、不妊治療に費やす時間のロスをなくすことができます。
不妊患者の高齢化やそれに伴う高齢妊娠が問題になっている今日、時間の短縮は非常に大きなメリットです。
一方で、PGSを行うと、移植すれば妊娠出産に至るような染色体異常(21トリソミーなど)も移植候補から外される、つまり生命の選別につながるという問題があります。

生命倫理の観点からPGSの臨床応用は禁止されているのですが、2013年から臨床研究として行われているNIPT(出生前診断の一つ)では、異常が判明したケースの97%が中絶手術を受けているそうです。
これが容認され、中絶を未然に防ぐことができる技術が認可されないというのは確かに不条理だと感じました。

PGSは倫理的な問題のほか診断精度や結果の解釈を巡って様々な議論があるので、簡単にいかないのは理解できるのですが、臨床応用に向けて何らかの指針が早く決まれば良いと思います。