不妊治療のパラダイム

不妊治療のパラダイム

医師の船曳美也子です。

パラダイム(paradigm)とは、ある時代や分野において支配的規範となる「物の見方や捉え方」のことです。
狭義には科学分野の言葉で、天動説や地動説に見られるような「ある時代を牽引するような、規範的考え方」をさします。

このような規範的考え方は、時代の変遷につれて革命的・非連続的な変化を起こす事があり(=天動説から地動説への変化など)、この変化をパラダイムシフトと呼びます。
~三省堂辞典より

現在の不妊治療のパラダイムは、「治療はステップアップで」です。
つまり、まず原因検索。原因不明ならタイミング療法から。
次に人工授精。最後に体外受精、という段階をふむという考えです。
日本産婦人科学会も、体外受精の適応は、体外受精でないと妊娠が難しいと考えられる場合、としています。

しかし、このパラダイムは、わたしが産婦人科医に入局した1991年当時から変わっていません。
20年以上たって、結婚年齢も第一子希望年齢も上がっている今、卵子の妊孕性低下の影響を考えると、初診時37~38歳以降の女性にはステップアップという考えでよいのか、と常々思っています。

今回ご紹介するアメリカの論文では、6か月以上の不妊期間を経た原因不明不妊のカップルを、ランダムに次の三群にわけ、2サイクル続けて同じ治療をして、どの群が最も妊娠したかをみています。
治療法は、クロミッド+人工授精、FSH+人工授精、すぐに体外受精、の三種類。2サイクルで結果がでなければ、3サイクル目からは全員体外受精を最長6回まで行ったところで統計をだしました。

154カップルをほぼ同数に分けて治療した3グループの2周期の累積妊娠率は、クロミッド+AIHで21%、FSH+AIHで17%、すぐ体外受精で49%でした。
すべての治療後、71%の方が妊娠し46%の方が分娩していますが、分娩の84%は、体外受精による妊娠でした。また、体外受精を選択した場合、3.5ヶ月早く結果をだせました。

これらの結果をどうみるか、いろいろご意見はあると思います。が、急激な卵子数減少、妊娠率減少のおきる37,38歳以降の女性には、早期に体外受精を勧めるというアメリカ的治療方針はきわめて合理的だと思っています。

A randomized clinical traial to determine optimal infertility treatment in older couples: the Forty and Over Treatment Trial ( FORT-T) Marlene B.Goldman,Sc.D., F&S Vol.101,No.6,June 2014 P1574-1581