Nature誌に掲載:「多細胞の協調性とがんにおける再配線」が生殖医療に示す未来

Nature誌に掲載:「多細胞の協調性とがんにおける再配線」が生殖医療に示す未来

2025年7月、Nature誌のArticle欄に掲載された注目論文:
 “Cross-tissue multicellular coordination and its rewiring in cancer”(Qiang Shiら)は、ヒトの臓器横断的な細胞間ネットワークの理解を一変させる、極めて重要な成果です。

本研究では、35種類のヒト臓器から得られた約230万個の細胞を用い、**各臓器に共通して現れる「細胞モジュール(Cellular Modules; CM)」を同定。さらに、がんが進行する過程で、これらのモジュールがどのように“再配線(rewiring)”**されるかを可視化しました。

この論文でいう「細胞モジュール(Cellular Module, CM)」とは、臓器や組織の中で特定の機能を果たすために、複数の種類の細胞が協調して構成している“機能ユニット”のようなものです。

たとえば、子宮内膜や卵巣では、線維芽細胞・免疫細胞・血管内皮細胞などが集まり、周期的な再構築や受精卵の着床に適した環境づくりに関与しています。これらの細胞は、単体で働くのではなく、“協調的なネットワーク”として存在しています。このネットワーク単位が「モジュール」として定義されています。

従来の研究では、「細胞の種類」ごとに分類するのが主流でしたが、本研究では「実際に一緒に働いている細胞の集団単位で見る」という発想に基づいています。これは、生体を“エコシステム”として捉える視点であり、がんや不妊といった複雑な病態の理解に大きく貢献します。

本論文はがん研究の側面から語られることが多いですが、実は生殖医学・生殖腫瘍学にとっても非常に示唆に富む内容が含まれています。

たとえば、

  • 卵巣、子宮、乳腺などに特異的に存在する細胞モジュール(CM07・CM12)が、妊孕性の基盤を支えていること、
  • それらががんの進展に伴い急速に失われていくこと、
  • 一方で、がん特異的なモジュール(cCM02)が形成され、慢性炎症・免疫抑制・線維化といった妊孕性に敵対的な環境が出現すること、

が明確に示されています。

本研究の知見は、がん妊孕性温存(Fertility Preservation in Cancer)という領域にも、根本的な見直しを迫るものです。

  • 治療前に「まだ妊孕性は残っているか」
  • 「どの程度、がんによって妊孕性が蝕まれているか」
  • 「凍結保存すべきタイミングはいつか」

といったこれまで曖昧だった判断に対して、細胞モジュールの変化という分子・構造レベルの指標を与える可能性があります。

今後、この論文の知見を応用した臨床研究が始まれば、生殖医療における診断・予測・治療戦略は飛躍的に進化するかもしれません。

この論文はがん研究にとどまらず、生殖医療の実践においても多くの新しいアイデアを生む種になり得ます。 特に、不妊治療やがん治療と妊孕性の両立を考える方にとって、極めて重要な基盤知識になるといえるでしょう。

【Nature論文はこちら(外部リンク)】

https://www.nature.com/articles/s41586-025-09053-4


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