ミズイロと学ぶ 胚培養の世界― 胚の発育とグレード評価(その2)―

ミズイロと学ぶ 胚培養の世界― 胚の発育とグレード評価(その2)―

グレードの限界と、胚をどう見るか

前回は、胚の見た目から評価する「グレード」について解説しました。
ミズイロと学ぶ― 胚の発育とグレード評価(その1)―
では、そのグレードで、どこまでわかるのでしょうか。

グレードを確認するワケ

胚培養士は、顕微鏡で観察した情報をもとにグレードをつけています。
しかし実際には、胚の中で起きているすべてを知ることはできません。
たとえば、細胞の中のエネルギーの使われ方や、遺伝的な背景などは、見た目から直接判断することができない要素です。
一方で、順調に発育し、細胞数の多い胚盤胞では、こうした要素に大きな問題がない可能性が高いとも考えられます。
何らかの異常があれば、発育のスピードや分裂の過程に現れることがあるためです。
ただし、それでもすべてを読み取れるわけではありません。
そのためグレードは、どの胚から移植するかを考える際の「判断材料のひとつ」として用いられています。

グレード評価でわからないこと

胚培養士は、顕微鏡で胚盤胞を観察し、グレード評価を行います。
タイムラプスインキュベーターを用いた場合には、これに加えて発育の過程や変化も評価に含めます。
こうして得られた情報をもとに、複数の胚がある場合には移植の順番を検討していきます。
たとえば、胚培養士ミズイロでは、患者さんに「顕微授精をして、5AA、5AB… 6つの胚盤胞になりました」と説明している場面があります。

引用元:漫画「胚培養士ミズイロ」おかざき真里 小学館 週刊スピリッツ連載 単行本第5巻第29話より

5AAや5ABという胚盤胞は、一般的にグレードの高い胚とされ、妊娠の期待も高まります。
しかしここで重要なのは、グレードがそのまま妊娠の結果を決めるわけではないという点です。
胚盤胞のグレードは、妊娠率や出生率と関連することが報告されていて、グレードが高いほど妊娠しやすいのは事実です。
一方で、すべてがその通りになるわけではありません。
グレードが高くても妊娠に至らないこともあれば、グレードが低い胚で妊娠することもあります。
グレード評価だけでは、胚が持っているエネルギーの量やその質、胚の染色体の数や形を知ることはできません。
つまり、グレードは移植胚を選ぶ際に重要な指標でありながら、
それだけで結果を正確に予測できるものではないのです。
また、グレードは妊娠成立後の胎児の発育にはほぼ影響しません。

▶︎参考記事 Oak Journal Review: 低グレード胚盤胞を移植した際の妊娠成績

ひとつひとつの胚に個性があり、同じ5AAと評価された胚でも、その中で起きていることは異なり、すべてを完全に把握することはできません。
だからこそグレードは、「結果」ではなく「手がかり」なのです。
どの胚にどのような可能性があるのか。
その可能性を、限られた情報の中から丁寧に読み取っていくこと。
それが、胚培養の現場で大切にされている視点です。

胚のもう一つの評価方法

こうした「グレード評価だけではわからない情報」を補う方法として、着床前遺伝学的検査(PGT)があります。
ただし、PGTはすべての方に行われる検査ではなく、必要に応じて選択されます。
胚の発育ステージや細胞数から評価できない「胚の染色体の数や形の異常」はPGTで調べることができます。
胚盤胞の栄養外胚葉(胎盤になる細胞)を採取して、解析し、グレード評価だけではわからなかった染色体の数や形を調べ、問題のない胚を選択して移植することで、流産を減らし、妊娠につながる可能性が高まるとされています。

ただし、それでもすべてを正確に判断できるわけではありません。
PGTでは、栄養外胚葉(胎盤になる細胞)の染色体を調べていますが、内部細胞塊(赤ちゃんになる細胞)を直接調べることはできません。
そのため、栄養外胚葉に異常がなくても、内部細胞塊に異常を抱えている可能性が完全に否定されるわけではありません。また、その逆のパターンもあります(栄養外胚葉は異常だが、内部細胞塊は正常)。

胚の染色体の数や形に異常がなければ、流産率を低下させ、妊娠率を上げることができるのですが、それ以外の要因(胚の遺伝子異常、エネルギー不足、母体環境など)もに妊娠に影響を及ぼします。
そのため、PGTを行っても、完全に流産を防ぐこと、必ず妊娠するとは限らないのです。

このように、グレードやPGTなど複数の評価を組み合わせても、胚の可能性を完全に予測することはできません。
胚の発育には個性があり、そのすべてを見通すことは難しいものです。
そのため、PGTの有無にかかわらず、グレードや発育の様子、これまでの経過などをもとに、総合的に判断していきます。

▶ 関連 PGT-Aの結果の解釈の仕方 現役医師が娘にもわかるように説明してみた(外部リンク)

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次回へ続く

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