ミズイロと学ぶ!‒ 第4話 45歳の卵子と若い時に凍結した卵子、その違いは?(その2)

ミズイロと学ぶ!‒ 第4話 45歳の卵子と若い時に凍結した卵子、その違いは?(その2)

若い時の卵子と今の年齢の卵子

「45歳の卵子と若い時に凍結した卵子、その違いは? – 第4話より その1」では、卵子凍結についてお話ししました。さて、ここからが本題です。
若い時に凍結した卵子と今の年齢の卵子についてです。

若い時に卵子を凍結していたら?

卵子を若いうちに凍結していれば、その質を保つことができるため、40歳を過ぎても妊娠・出産の可能性は高まります。
胚培養士ミズイロでは、43歳の女優が出産というスクープが取り上げられ、卵子凍結していたと記されています。
この女優が何歳の時に卵子凍結をしたのかはわかりませんが、年齢を重ねて出産することも可能になるわけです。
ただし、卵子を凍結したからといって必ず妊娠、出産できるわけではありません。

  • 卵子と精子が正常に受精すること
  • 受精卵が順調に発育すること
  • 移植が成功し、着床すること
  • 妊娠を維持し、出産に至ること

これらの段階をすべて経て、ようやく赤ちゃんを抱くことができます。
卵子の質は保たれていても、それだけではなく、精子の質、胚の質、子宮環境などさまざまな条件が整うことが妊娠へつながるのです。

45歳、自己卵で体外受精の現実

妊娠は、排卵がある限り挑戦することができます。
このお話のなかでは、体外受精で挑戦している女優さんが出てきます。

40歳を過ぎると、卵子の質の低下は顕著になってきます。
たとえば、体外受精の妊娠率・生産率(生きて赤ちゃんが誕生する割合)・流産率を見てみると、妊娠率や生産率は年齢を重ねるごとに低くなり、一方で流産率は年齢を重ねるごとに高くなっていくことがわかります。
このお話の中でも、妊娠反応が出ず、残念ながら陰性の結果となってしまいます。
この原因の多くは、卵子の質、とくに染色体の数の異常です。
本来は、23本あるはずの染色体が、22本だったり、24本になったりします。卵子は、もともと染色体数の異常が起こりやすいのですが、年齢とともに起こりやすさの頻度が上がり、これにより妊娠が難しくなる、または流産になる主な原因となっています。

日本産科婦人科学会ARTデータ2023

胚盤胞のグレード「3BC」―年齢によって妊娠率は変わる?

胚盤胞の評価は、

  • 発育の状態(胚盤胞腔の広がり)
  • 内部細胞塊:ICM(将来赤ちゃんになる部分)の細胞数
  • 栄養外胚葉:TE(将来胎盤になる部分)の細胞数

によって決まります。

胚盤胞のグレードは、胚盤胞腔の広がり(発育状態)、内部細胞塊:ICM(将来赤ちゃんになる細胞)の数、栄養外胚葉:TE(将来胎盤になる細胞)の数から胚培養士が判断します。
たとえば、胚培養士ミズイロのお話の中にある「3BC」という胚盤胞は、発育は進んでいてもTEの細胞数が少ないため、良好とはいえません。
一般的に数字は3以上、ICMとTEはBB以上が良い状態で、グレードの良い胚盤胞ほど妊娠率が高いことがわかっています。
そして、同じグレードでも女性の年齢によって妊娠率は変わります。たとえば、30歳の3BCの胚盤胞と40歳の3BCの胚盤胞では見た目は同じように見えても、年齢が高くなるほど染色体数異常の確率が上がるため、妊娠率は異なり、40歳の3BCの方が低くなります。

女性の年齢別 胚の染色体数異常率Franasiak et al., Fertility and Sterility. 2014; 101: 656-663

また、胚盤胞のグレードだけではなく、受精や途中の発育の状態も含めて総合的に判断されることもあります。

移植後の過ごし方で妊娠は変わる?

胚移植後は、以前は『安静に過ごす方が良い』とされていましたが、現在では普段どおりの生活で大丈夫と考えられています。そのため、胚移植直後も、クリニックのリカバリールームなどで休まずにお帰りいただくことができます。実際、胚移植直後に安静にしても、しなくても妊娠率は変わらないことがわかっています。
では、その後の日々の生活についても、 食事や飲み物、運動などもいつも通りで問題ありませんので、リラックスしてお過ごしください。
胚培養士ミズイロのお話のなかでは、女優さんならではで、重い甲冑を着て馬に乗るシーンがあります。これは、普段…とは言い難いので、落馬したりする危険性からも避けた方がいいと思います。
何にしろ、命の危険や健康を損なうようなことがないように、胚移植後は過ごしてほしいところです。
疑問や不安がある場合は、遠慮なくオーク会ヘルプセンターにお問い合わせください。

何歳であっても

さて、胚培養士ミズイロの一場面です。
胚培養士さんは、

  • グレードが3BC
  • あまり良い状態ではない
  • ひとつだけでは厳しい

と胚の写真を見て冷静に考えています。

引用元:漫画「胚培養士ミズイロ」おかざき真里 小学館 週刊スピリッツ連載 単行本第一巻第4話より

一方で、患者である女優さんは、「綺麗ね、感動する。生きてるのね」と目を輝かせます。
それでも胚培養士さんは、「まだこの段階では…」と状況を説明しようとするのですが、患者さんは「ストップ!」と遮ります。
厳しい状況であることを、彼女自身もわかっているのです。
「この胚でやるしかない」と…。
患者様カップルは、今この状況で、やれることを精一杯受け止めながら、赤ちゃんを授かろうと必死になっています。
その思いに応えられるよう、「医療」で、「技術」で、そして「心」で支えていくのが私たちの務めだと、改めて感じた一場面でした。
卵子凍結や体外受精は簡単な道ではありませんが、選択肢を知ることで未来の可能性を広げることができます。
妊娠を望む皆さまに、少しでも希望や参考になれば幸いです。
さて、次回は、採卵についてお話しようと思います。


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第5話へ続く

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