引用元:漫画「胚培養士ミズイロ」おかざき真里 小学館 週刊スピリッツ連載 単行本第一巻第1話より
培養室の中を見てみましょう
◇ 清潔さが命!クリーンルーム設計
培養室は、とにかくクリーンな場所。そのため、入室前には、キャップを被って髪の毛をすべて入れ、マスクを着用し、手を丁寧に洗う必要があります。(また、入室前にはエアーシャワーを浴びて、衣服などについた細かいチリやホコリを飛ばし、)きれいな状態で入ります。
培養室は一般的にクリーンルームを最も高い陽圧に設定することで、手術室等から紛塵の流入を防ぐことができ、高性能なHEPAフィルターを通したクリーンな空気を送り込むように設計されています。
なぜ、ここまでクリーンレベルを上げるか? それは、卵子や胚がいる環境を思い浮かべてください。卵管や子宮の環境には、チリもホコリもありません。それに近づけることが必要なのです。
では、実際に卵子や精子、胚を扱うための機器を紹介していきましょう。
◇ 培養室の主な機器をご紹介
- クリーンベンチ
手術室のように清潔な空間を保つための作業台で、清潔操作が必要な作業に用いられます。この中に顕微鏡を置いて検卵(採卵後、卵胞液から卵子を探す)や受精操作、胚移植の準備をします。作業台は、37度に保てるようになっています。
また、モニターが設置され、顕微鏡で観察している卵子や胚をモニターで確認できるようになっています。モニターに映し出されたものをほかの胚培養士が一緒に見て確認することができます。 - 実体顕微鏡
実体顕微鏡とは、小さなものを立体的に観察できる顕微鏡で、一般的な生物顕微鏡のようにスライドガラスにのせなくても観察できます。接眼レンズが2つあり、上から光を当てて観察します。
検卵や通常媒精(卵子に精子を振りかける方法)、精子の数を数えたり、形を観察したりする精液検査や、精子調整をする際に用いられます。
※理科の授業などで使った生物顕微鏡は、物体をプレパラート(スライドガラス+カバーガラス)で通し、下から当てられる光で観察します。 - 倒立顕微鏡+マイクロマニピュレーター
顕微授精(ICSI)を行うためには、倒立顕微鏡という特殊な顕微鏡システムが必要です。
倒立顕微鏡とは、対物レンズが下に設置されているタイプの顕微鏡で、通常の「上からのぞく」顕微鏡とは構造が逆になっています。
なぜ下から観察する必要があるのかというと、ディッシュの中で卵子を操作するスペースを確保するためです。
もし対物レンズが上にあると、精密な操作の邪魔になってしまいます。そのため、上部には広い作業空間を確保し、下から観察できる倒立タイプが適しています。
ICSIでは、ディッシュ内にある卵子を細いガラスピペットで固定(ホールディングピペット)し、別のピペット(インジェクションピペット)を使って精子を卵子の中に注入します。
この操作を行うために使うのが、マイクロマニピュレーターという装置です。
倒立顕微鏡の左右に取り付けられた操作レバー(マニピュレーター)を使い、極めて細かい動きを手元で調整しながら、ピペットを自在に動かします。これには高い技術が求められます。 - インキュベーター
胚を培養する機器です。温度や湿度、二酸化炭素などの濃度を一定に保つようにプログラムされています。オーク会では、胚の培養はタイムラプスインキュベーターで行っています。
インキュベーターに内蔵されたカメラによって撮影した胚のタイムラプス画像を連続して見ることで、胚の発育の様子を動画のように観察することができます。
タイムラプスインキュベーターを用いることで、胚をインキュベーターから出すことなく観察し、培養することができます。
また、インキュベーターは、培養液を準備するためにも必要です。培養液は、胚へ栄養を与える大事なものです。
この培養液は、普段、冷蔵庫で保管されています。そのまま胚へ用いることはできないので、インキュベーターで37度に温め、pHを7.2〜7.4に調整して安定させてから用います。
適切な温度やpHでないと受精率が低下したり、胚発育が遅れたり、妊娠へ影響することもあるため、培養液の準備は
大事な仕事の1つです。
※以前は、胚を観察するためにはインキュベーターから出して顕微鏡で発育の状態を観察していました。胚をインキュベーターから出すのは、発育程度を観察するためには必要なことでしたが、胚にとってはストレスをかけることになります。それが短い時間でもあっても、小さな小さな胚にとってインキュベーターの外で過ごすことはストレスがかかることでした。 - 凍結タンク
患者さまからお預かりした胚や精子、卵子を凍結し保管するのが凍結タンクで、中には-196℃の液体窒素が充満し、適切に補充することで必要になるまで保管することができます。
凍結タンクの蓋は、液体窒素の蒸発を防ぐために二重構造になっています。 - 遠心分離器
精液検査や精子調整のために用います。精液に調整用の培養液を重層して遠心分離にかけて、元気な精子を抽出します。
培養室の「光」と胚への配慮
私たちオーク会は、オーク住吉産婦人科、オーク梅田レディースクリニック、オーク銀座レディースクリニックと3つのクリニックに、それぞれ培養室があります。
培養室の写真を見ていただくとわかりますが、意外に明るく感じられるかもしれません。
この明るさは、卵子や胚を扱っていない時間帯の室内の様子や撮影用に整えたスタイルです。
本来、卵子や胚が育つ子宮や卵管の中には光はなく、特に紫外線は胚に悪影響を与える可能性があるため避けなければなりません。そのため卵子や胚を扱うことがあるときの室内は、ほの暗い状態に調整されています。胚へのストレスをできるだけ減らし、自然に近い環境で育てるための配慮です。
さいごに
胚培養士ミズイロの1巻、第1話では、おばあさんに大事に育てられた孫娘が、赤ちゃんを授かりたいとご主人と一緒に体外受精に臨んでいます。
妊娠を急ぎたいから、2個胚移植をしてほしいと泣きながら訴える患者さまカップルに、多胎妊娠のリスクなどを説明し、その後、1個胚移植で妊娠反応が陽性に出た喜び、培養室でのガッツポーズの場面へと続きます。
最後の場面で孫娘が「おばあちゃん、ほら、ひ孫だよ!」と胚盤胞の写真を見せていますが、この胚も培養室で大事に育てられた胚です。
おばあさんの「卵じゃ、ねえか」という最後の一言は秀逸でした。「このおばあさん、人の卵を知っている!それだけですごい!」と思った締めくくりでした。
次回は、「精子が見つからない!?」無精子症と診断されたら ‒ 第2話より をお届けする予定です。
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