コロナウイルスの感染は精液所見に影響を及ぼすのか

コロナウイルスの感染は精液所見に影響を及ぼすのか

こんにちは。医師の岩本です。

男性不妊専門医として、現在のところまでの精液所見に対するコロナの影響に関する知見をまとめておきたいと思います。
残念なことに日本発の信頼できるデータは、私が調べたところ、ありません。海外からのデータになります。

Bestら(2021)の調査によると、Covid-19陽性感染者30例と、年齢を揃えた陰性コントロール30例の精子濃度(X106/ml)を比較したところ、前者で11.5±26.8、後者で21.5±21.5と、感染者群で有意に低下していた(p=0.0048)とのことです。
総精子数(X106)も前者で12.5±52.1、後者で59.2±70.5と、感染者群で有意に減少していた(p=0.0024)ことが報告されています。このことより、Covid-19は、ウイルスが存在しなくても精巣構造に損傷を与える可能性があると指摘しました。
しかしながら、根本的なメカニズムや、男性の生殖に関する健康に対するCovid-19 の長期的な後遺症については、まだ多くの未解決の問題があると述べています。

Hortmannら(2020)もCovid-19患者の精液所見に影響を及ぼすかを調査しています。
感染が逆転写ポリメラーゼ連鎖反応[RT-PCR]または抗体による咽頭スワブよって確認され、感染後8-54日後の回復期の患者18名(うち14名は自宅療養が可能な軽度感染、4名は入院し酸素投与が必要だった中等度感染者)と、対照として感染していないボランティア群(抗体なし)14名で精液検査を行いました。
なお全例で精液中の RNA は RT-PCR 検査にて検出されていませんでした。精液検査の結果:中等度感染者と非感染者の精子濃度(X106/ml)はそれぞれ16.2±22.4、89.5±69.6と、有意に感染者群で低下していました(P<0.05)。
また総運動精子数(X106)も、それぞれ4.7±5.5、 124.0±124.9と有意に感染者で低下していました(P<0.05)。

まとめですが、中等度のCovid-19感染は、精巣あるいは精巣上体の機能に影響を与えることで、精子濃度、運動率に影響を及ぼしているのではないかと推察されます。
興味深いデータとしては、精液所見不良になった要因の一つとして発熱の関与が指摘されています。
有熱者群(10名)と非有熱者(8名)の精子濃度、総精子数、総運動精子数を比較したところ有熱者群でいずれも有意に低下していました。
彼らはCovid-19の直接の感染による影響と発熱による影響が、それぞれどの程度関与しているのか、今後の研究が待たれます。

今回紹介した文献ではいずれもCovid-19陽性患者の精液所見が不良という結果でしたが、まだウイルス感染の影響と断定するのは早計で、精巣炎、精巣上体炎による二次的な結果なのかに関しては分かりません。
症例数がまだまだ少ないし、妊活中の男性のみを対象としたものでないこともありますし、今後、妊娠、出産という結果も含めて調査が必要です。
今後、Covid-19の男性ホルモン、テストステロンへの影響(勃起不全を認めるとの報告もあり)についてもご紹介したいと思います。

参考文献
1)Nassau et.al:Impact of the SARS-Cov-2 virus on male reproductive health. BJU Int 2022;129:143-150
2)Best et al. Evaluation of SARS-Cov-2  in human semen and effect on total sperm number: a prospective observational study. The World J of Men’s Health 2021;39:489.
3)Holtmann et al:Assessment of SARS-CoV-2 in human semen-a cohort study. Fertil Steril 2020;114:233-8.

                       2022年9月秋早、
オーク銀座レディースクリニック
男性不妊部門 顧問 岩本晃明