経口避妊薬服用における血栓のリスク

経口避妊薬服用における血栓のリスク

医師の田口です。

先日、歌手のジャスティンビーバーさんの妻であるモデルのヘイリービーバーさんが、脳卒中で緊急搬送されたことが報じられました。
その後回復し、ご自身のYoutubeチャンネルでこのことについて語っています。
朝食中に急に腕や指先が麻痺、顔が垂れ下がった感じがあり、搬送先の病院での検査の結果、血栓による一過性脳虚血発作検査だったとのこと。
血液が凝固してできる血栓によって脳が一定期間、酸素不足になる状態です。
幸いすぐに症状は消失したとのこと。

脳卒中というと年配の病気というイメージがありますが、なぜ、こんなに若い健康な女性に起こったのかと、不思議に思いますが、実はこのころ彼女は経口避妊薬(ピル)を服用し始めたところだったとのことで、それが一つの誘因になったと医師に説明を受けたそうです。
また、その他にも、この出来事の直前に新型コロナウイルスに感染したり、長時間のフライトをしていたことも誘因になっているとのこと。
また、さらにその後、彼女の心臓に小さな穴(卵円孔)が閉鎖しないままになっていることが判り、それも大きな誘因になるとして、閉鎖する手術を受けたそうです。
たまたま多くの要因が重なったようですね。

経口避妊薬について経口避妊薬服用に血栓のリスクがあるというのは良く知られた話です。
リスクを上昇させる因子として、喫煙が第一に上げられると思いますが、とくに35歳以上で15本以上の喫煙をする場合は服用を見合わせます。

ヘイリービーバーさんの年齢は20代とリスクは高くありません。
喫煙については述べられていませんが、たぶん無かったと考えられます。
しかし、実は彼女はひどい片頭痛もちだったということで、そのことを処方する医師に伝えていなかったとのこと。ここが大きな問題です。

実は、ピル服用に際して、片頭痛は非常に注意が必要な項目なのです。
とくに、「前兆のある」片頭痛持ちで喫煙していると、脳梗塞のリスクが10倍になるとのこと。
「前兆」というのは分かりにくい表現ですが、視野が欠けたり(半盲)、ギザギザした光が見えたり(閃輝暗点:せんきあんてん)する状態のことです。それらの症状が4分〜60分間程度持続した後に、ズキズキとする頭痛が出現し、前兆は頭痛が始まる前に消失します。 

当院で経口避妊薬を処方する際の問診票には、前兆のある片頭痛の有無についての項目があります。
それにチェックが入ると詳細な問診を行ったうえで、血栓リスクの高い片頭痛であると診断した場合、処方をしないようにしています。
どうしても避妊が必要な場合は、子宮内避妊器具(IUD)などの方法を考えることになります。

このように書くと、ピル服用はとても恐ろしいように感じると思いますが、血栓症自体は、低用量ピルを服用していない人でも年間1万人に1〜5人の確率で発症すると言われています。
低用量ピルを服用した場合、1万人に対して3〜9人の確率で血栓症を発症すると言われており、確かにリスクは高くなりますが、妊娠中および産後12週間の血栓症発症確率が1万人当たり40~65人ですので、低用量ピルを服用している時よりも、妊娠出産のほうがはるかにハイリスクです。

どのお薬もそうですが、ピルも正しく服用することで、きちんと避妊もでき、リスクも最小限に抑えられると思います。
友人からもらって気軽に服用したりせず、医師の問診と検査を受けたうえで、服用法を守っている限り、心配しすぎる必要はないと思います。

また、服用中に血栓に起因すると思われる症状(いずれも激しい頭痛、胸痛、腹痛、下肢痛、舌のもつれ、視野狭窄など)がみられた場合は、直ちに服用を中止し、処方元の医療機関に連絡することが大切です。

参考
ヘイリービーバーさんのYoutube
https://www.youtube.com/watch?v=665iGAG-ZqU
当院のピル問診票
https://www.oakclinic-group.com/document.html#link07